世界中を不幸にした教会税
この教会税は、キリスト教普及の原動力ともなりました。新しい教会をつくれば、地域から教会税を徴収できるのですから、まだ教会がない「未開の地」に、どんどん教会が建てられていくことになります。
教会を建てる側には「これはキリスト教の布教のためだ」という大義名分があります。教会税利権が欲しくて教会を建てていても、「人のためになっている」と自分自身に言い訳できるわけです。だから良心の呵責などもなく、どん欲に教会を建てることができるわけです。
この「教会を建てれば徴税権が生じる」という「教会税システム」は、やがて人類に大きな災いをもたらすことになります。というのも、この「敬虔なキリスト教徒たち」が、ヨーロッパ内に飽き足らず、世界中に教会を建て始めたからです。
ご存知のように、15世紀から17世紀にかけて、スペインやポルトガルなどが新しい航路をどんどん開拓し、世界中に植民地を建設します。いわゆる大航海時代です。
この大航海時代は、前にも述べたように、「アジアの香料を求めていた」というのが最大のモチベーションでした。が、もう一つ、「キリスト教の布教」ということも、彼らの大きなモチベーションだったのです。
15世紀、ポルトガル、スペインは、羅針盤、造船技術などの発達により、世界各地への航路を開拓しました。この大航海時代は、ポルトガルのエンリケ航海王子など国家的スポンサーなしではあり得ませんでした。つまり彼らの大航海は国家事業でもあったのだ。そしてこの国家事業にはキリスト教の布教が付随していたのです。
1494年、ローマ教皇は「アメリカ大陸は、スペインとポルトガルの二国で半分ずつ分け合いなさい」という命令を出しました。これは、スペインとポルトガルの間で締結されたトリデシリャス条約と呼ばれるものです。この条約は西経46度36分を境界にして、世界をスペイン、ポルトガルの両国で二分するというもので、形式の上ではアメリカ大陸のみならず、全世界が二分されることになっていました。そのため当時、日本もこの両国に分割されたことになっているのです。
このローマ教皇の傲慢ともいえる命令は、「キリスト教の布教」という大義名分がありました。「未開の人々にありがたいキリスト教を教えてあげなさい」ということです。そして、未開の地に教会を建てれば、そこで徴税権が発生するわけです。
ローマ・カトリック教会としても、信者は増えるし、上納金も増えるので、万々歳だったのです。
しかし、不幸なのは現地の人々です。スペインなどは、教会税を拡大解釈し、アメリカ大陸で植民政策を進めるために「エンコミエンダ(信託)」という制度を採りました。
「エンコミエンダ(信託)」とは、スペインからアメリカ大陸に行くものに現地人(インディオ)をキリスト教徒に改宗させる役目をもたせ、その代わりに現地での自由な徴税権を与えるというものです。
ざっくり言えば、「キリスト教の布教」という建前を掲げる事で、現地人からどれだけ収奪してもいいという許可を与えたのです。
だからアメリカ大陸に渡ったスペイン人たちは、「キリスト教布教」を隠れ蓑にして、収奪と殺戮を繰り返しました。アメリカではたくさんの鉱山が発見されましたが、そこから取れる金銀はすべてスペインが持ち帰りました。それだけではなく鉱山開発には、多くのインディオたちが奴隷労働を強いられたのです。
その結果、1492年からの200年間で、インディオの人口の90%が消滅したといわれています。この時代、スペインやポルトガルなどは、競ってアフリカやアジア、アメリカに侵攻し、過酷な略奪行為をしました。彼らとて、単なる略奪では気が引けます。が、彼らには「キリスト教の布教」と「教会税の徴収」という大きな大義名分があったのです。だからこそ、思う存分、略奪ができたわけです。
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