小林よしのり氏が論破。中国は台湾についてとやかく言う資格がない理由

 

清朝は、日本に割譲する以前の台湾を「化外の地」と呼んでいた。人の文明が及ばない、地の果てとしてほとんど放置しており、風土病が蔓延する無法地帯だったのだ。

日本はそんな台湾の治安や衛生環境を改善し、道を作り、橋を架け、通貨・金融制度を導入し、教育を普及し、産業を育成し、ありとあらゆる振興政策を行った。

もちろんいずれは日本にその利益が還元されることを目的としたものだったし、台湾人に対する差別があったことも確かだが、現地人に対してこれだけ恩恵の及んだ「植民地」など他にはほとんど例がなく、これを「植民地支配」と言うのが適当なのかどうかと疑われるようなものだったのである。

このようなことは、以前わしが全て『台湾論』で描いている。また以前に書いたことを繰り返さないといけないのかと思ってしまうが、仕方がない。

『台湾論』は北京語版も出ているから、中国政府も読んでいるかもしれない。本当の事が日本でも台湾でもある程度知られていることが分かっているから、王毅も冷静さをなくして激怒したのかもしれないが。

それにしても、中国もロシアも、歴史を偽造して侵略を正当化しようという手口はそっくり同じである。

ロシア人とウクライナ人は民族的には近いとはいえ、あくまでも別の民族である。そして歴史をさかのぼれば9~12世紀、ロシアは現在のウクライナ・キーウを首都とする大国「ルーシ」の一部だった。

ロシアはこの歴史を改ざんし、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であり、ウクライナはもともとロシアの領土だったのだから、ウクライナを併合し、ウクライナ人をあるべき状態に「解放」することが正義であると自国民を洗脳し、侵略を正当化している。

中国はこれと全く同じ詭弁で、中国人と台湾人は同じ民族であり、台湾はもともと中国の領土だったのだから、併合するのは「侵略」ではなく「解放」であり、「正義」であるとプロパガンダしているのである。

さらに、中国とロシアが同じように歴史を利用しているケースはまだある。

ロシアはウクライナへの侵攻を開始する際、ウクライナに「ネオナチ」がいると言い、「ファシズムとの戦い」を標榜した。

もちろんウクライナにネオナチもファシズムもないのだが、この荒唐無稽な主張にも実は意味がある。

ロシアは第2次世界大戦を「大祖国戦争」と呼び、この戦争で当時のソ連がナチス・ドイツに勝ったことをナショナル・アイデンティティにしている。

本当はドイツとソ連は手を組んだり裏切ったりした挙げ句に、ヒットラーとスターリンという独裁者二人が悪の頂上決戦を行ったわけだが、ロシアではこれが、「悪のナチス・ドイツ」から祖国を守り抜いた崇高なる正義の戦争ということになっているのだ。

しかも、実は「大祖国戦争」は戦後のソ連・ロシアでずっとナショナル・アイデンティティとされていたわけではなく、これが歴史教育等を通じてここまで強調されるようになったのは、プーチン政権発足以降なのである。

ロシアに占領支配されたドンバス地方を描いたウクライナ映画『ドンバス』では、親ロシア派の住民や兵士、役人らが何かと言えば「我々はファシズムと戦っている」と口にし、それさえ言えば何をやっても許されるという様子が描かれる。

またこの映画には、ドイツ人のジャーナリストに向かって、ロシア側の兵士が「お前はファシストだ!」とネチネチ責め立てるシーンもあった。

これは、中国が日本にやっていることと全く同じである。

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