沖縄の小さな岩の塊など二の次。米国が尖閣より台湾防衛を優先する訳

2022.09.01
smz20220831
 

台湾統一に関して、武力行使も辞さない姿勢を強調する習近平政権。中国が台湾侵攻に出た際には、尖閣諸島周辺も有事となる「複合事態」が生じる可能性が指摘されていますが、我が国は自国の領土を守り切ることができるのでしょうか。政治ジャーナリストで報道キャスターとしても活躍する清水克彦さんは今回、「複合事態」が発生した際にアメリカが日本より台湾防衛を優先する理由を解説。さらに中国が台湾統一に動き出せば日本は戦後最大の国家の危機に陥るとして、日本政府が急ぎ取るべき対策を提示しています。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

もうアメリカは守ってくれない。日本単独で守り切る体制作りはどうすべきか?

防衛費は実質6兆円台半ばに?

来年度(2023年度)予算の概算要求が出揃った。注目の防衛費は、岸田内閣が掲げる防衛力の抜本的強化に向け、過去最大の5兆5,947億円を計上し、さらに具体的な金額を示さない「事項要求」を多数盛り込んだ。

「事項要求」は、「あらかじめ金額の上限は決めないから、必要な額を算出して要求してくれ」というものだ。最近では、2021年度、2022年度の予算編成で、当時、最優先課題だった新型コロナウイルス対策予算で認められている。

これを防衛費にも認めたことは、それだけ、台湾有事や尖閣諸島有事を日本有事としてとらえ、来年度予算案の編成で防衛力強化を重視している証左と言えるだろう。

具体的に言えば、概算要求では、敵のミサイル発射拠点などをたたく長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」の配備、南西諸島など島しょ部の防衛に用いる「高速滑空弾」の量産、さらに、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わる「イージス・システム搭載艦」の整備費などを盛り込んでいる。

「事項要求」がどの程度になるかはまだ不透明だが、攻撃型無人機の開発、宇宙やサイバー、電磁波といった新領域の研究開発費の増額も含め、100項目以上盛り込むとすれば、過去最大だった今年度の防衛予算、5兆4,898億円を1兆円前後上回り、6兆円台半ばに達する可能性が大きい。

防衛費増額でGDP比は1%をゆうに超える

防衛費の増額は、中国や北朝鮮の脅威を視野に、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が防衛費の目標をGDP比2%にしている点に倣ったものだ。

今年度の防衛費はGDP比で1%弱。これを2%まで引き上げるとすれば、さらに5兆円が必要になる。今後5年で段階的に引き上げるとしても、毎年度、1兆円の上積みが必要になる。その意味で言えば、来年度予算は「狙いどおりのペース」ということになる。

現在、日本の国民1人当たりの防衛費は約4万円だ。アメリカの国防費が国民1人当たり約21万円というのは別格としても、NATOを牽引しているイギリス、フランス、ドイツなどの半分以下だ。

ただ、NATO加盟国は、締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなし、集団的自衛権を行使することが全ての加盟国に求められている。その点、日本とは事情が異なる。

NATOと日本とではGDP比の算出方法にも違いがある。NATOの場合、退役軍人年金や日本の海上保安庁に相当する沿岸警備隊の経費、PKO(国連平和維持活動)への拠出金なども含んでの数字だが、日本はこれらを除外して計算している。日本もNATO基準で計算すれば、防衛費は今でもGDP比で1.2%を超えているが、この比率が来年度予算でさらにアップする点は留意しておく必要がある。

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