アメリカは台湾を守ることで価値観と縄張りを守る
実は、アメリカに、台湾を守る法的義務はない。カーター政権時代に成立させた台湾関係法があるが、あくまで武器などを供与するだけに留めている。台湾を軍事的に防衛するかどうかは一貫して曖昧にしてきた。
それにもかかわらず、バイデン大統領はあえて、台湾を守るという趣旨の発言を繰り返している。それはなぜか。
最大の理由は、アメリカと同じ民主主義の台湾が中国の手に落ちれば、香港のように中国化され、アメリカが大事にしてきた価値観、「自由」と「民主」が蹂躙されてしまうからだ。これはアメリカとしては看過できない。
もう1つは、台湾が中国の一部になってしまえば、中国の太平洋におけるプレゼンスが強大化してしまうという点だ。
これまで、太平洋を挟んで、海洋国家であるアメリカと大陸国家である中国のせめぎ合いが続いてきたが、海洋国家対海洋国家の構図となり、台湾という防波堤を失ったアメリカのプレゼンスが圧倒的に低下すると見られるからである。
もちろん、世界最大で最高水準にある台湾の半導体技術を中国に渡すわけにはいかないといった理由もあるが、アメリカは、建国以来の価値観とこれまで築いてきた縄張りが中国によって踏みにじられることだけは許容できない。
ゆえに、アメリカは、台湾有事と尖閣諸島有事が同時に起きた場合、まず、台湾を支援しようと動くことになる。言葉は悪いが、沖縄県に属する小さな岩の塊など、アメリカにとっては二の次なのである。
台湾有事は日本有事
今年秋、習近平は中国共産党大会で総書記として3選を決める見通しだ。そうなると、台湾統一を「中国の夢」「核心的利益」と言ってはばからない習総書記は、中国軍建軍100年となる2027年あたりから、「台湾に高速鉄道を通そう」としている2035年あたりまでの間に統一へと動き出そうとするだろう。
そうなれば、日本は、戦後最大の国家の危機に陥ることになる。
前述した台湾有事のシミュレーションは、2027年、中国が武装漁民を尖閣に上陸させ実効支配するのと並行し、「無人機が台湾軍に撃墜された」と主張して台湾侵攻にも踏み切るという設定で実施されたが、漁民の上陸を「武力攻撃事態」、台湾侵攻を「存立危機事態」と認定するまでに時間を要した。
日本政府としては、防衛費の増額もさることながら、これと併せて、政府レベルでシミュレーションを繰り返し、安倍政権下で成立した安全保障関連法で何ができるのか、どこが足りないのかの検証を急ぐことも急務となる。
著書紹介:ゼレンスキー勇気の言葉100
清水克彦 著/ワニブックス
清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール:
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。
image by : 防衛省 海上自衛隊 - Home | Facebook