沖縄の小さな岩の塊など二の次。米国が尖閣より台湾防衛を優先する訳

2022.09.01
 

中国が台湾の統一に動けば南西諸島も戦場になる

それでも私は、防衛費の大幅な増額は不可避だと考えている。なぜなら、アメリカは、台湾有事や尖閣諸島有事が起きた場合、日本ではなく台湾の防衛を優先させると見られるからだ。

8月2日、アメリカ議会下院のナンシー・ペロシ議長が台湾を訪問した際、中国は台湾を6方面から取り囲み、大規模な軍事演習を実施して強く反発した。そして弾道ミサイル5発を、日本のEEZ(排他的経済水域)に落下させ威嚇した。

これは、中国が、「台湾や日本の南西諸島など、その気になればいつでも包囲し攻撃できる」という姿勢と能力の高さを示すため断行したものだ。

言い換えるなら、中国が台湾統一へと本気で動き出せば、尖閣諸島を含む南西諸島一帯もともに有事となる「複合事態」が生じる可能性が極めて高いということである。

事実、日本のシンクタンク「日本戦略研究フォーラム」が、ペロシ氏訪台直後の8月6日、小野寺五典元防衛相を首相役に、元自衛隊幹部らと実施した台湾有事シミュレーションでは、台湾と尖閣諸島が同時に侵略を受ける「複合事態」を想定し実施されている。

アメリカはすぐに日本を助けてはくれない

「日本の国土の一部でも攻撃されれば、日米安全保障条約があるのだからアメリカが守ってくれるのでは?」と考えたいところだ。しかし、そうはいかない。

1951年に署名された日米安全保障条約は、1960年の改定で、第5条として次の文言が追加されている。

各締約国は、日本国の施政の下にある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する

この「日本の領域で日米のいずれかが攻撃された場合、共同防衛しますよ」という取り決めは、言い換えるなら「契約」に近い。

日本は、沖縄などに駐留するアメリカ軍のために、土地をはじめ様々な支援をする見返りに、万一の場合、世界最強とされるアメリカ軍に、条文で定めた「契約」に基づいて助けてもらえるというわけだ。

確かに、第5条では「共通の危険に対処する」としているが、アメリカの「防衛義務」(security commitment)」には足かせがある。

というのも、アメリカが「防衛義務」を行う場合、アメリカ憲法の規定ならびに諸手続きに従うことも明記されているからだ。

つまり、大統領や国防長官の一存では決められず、最終的には連邦議会によって決定されると謳っているのである。

議会で決めるとなると、上下両院で共和・民主両党の議席数がどうなっているか、その時点での大統領への支持率や国民世論がどうであるかに左右される。

日本の場合、アメリカとの間に「契約」が存在するため、最新兵器や軍事物資の支援は望めるだろうが、それ以上となると懸念が残る。

アメリカは、中国が台湾の周辺海域や東シナ海に軍を展開させれば、在沖縄基地が攻撃されないうちに主力をグアムかハワイまで下げることが予想される。そうなると、当面は日本の自衛隊だけで阻止しなければならなくなる。

アメリカ国内の世論も、遠く離れた東アジアの小さな島が攻撃を受けたからといって、「これはアメリカの国益を左右する事態」と認識し、すぐさま軍を派遣することに賛成するとは思えず、日本は単独で強大な中国軍と向き合うことを余儀なくされるだろう。

現に、先に紹介した8月6日の小野寺元防衛相らによるシミュレーションでも、アメリカ大統領役を務めた元沖縄総領事、ケビン・メヒアは、「複合事態が生じたなら台湾優先」と明言している。

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