自民と親密な産経新聞に「森元首相へ200万」スクープが掲載された理由

 

しかしそれでは、せっかく大物の尻尾をつかんだ現場の検事たちは面白くないだろう。森氏の捜査に着手することで、堕落した政界にメスを入れるチャンスが広がるはずだ。そういう現場の不満のなかから、リークの動きが出たとも考えられる。

その場合の情報元は、特捜部長ら幹部のみならず、ヒラ検事、もしくは検察事務官まで、可能性がある。

東京地検特捜部では、情報漏洩を防ぐためヒラ検事にメディアとの接触を禁じているようだが、実際には記者と親しく付き合う検事が少なくない。情報のギブアンドテイクをするためだ。まれには検察事務官を抱きこむヤリ手記者もいる。

森喜朗氏をめぐっては、かねてから疑惑があり、メディア各社とも目をつけていた。

その疑惑は、東京に五輪を招致するための買収工作に関与していたのではないかというものだ。森氏が代表理事・会長を務めた「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」に招致委員会から約1億4,500万円が支払われていたことがわかっている。

セガサミーホールディングスの里見治会長が2013年、当時の官房長官、菅義偉・前首相から「アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億~5億円の工作資金が必要だ」「嘉納治五郎財団というのがある。そこに振り込んでくれれば会長にご迷惑はかからない」と依頼を受けたという「週刊新潮」2020年2月20日号の報道もある。

高橋治之容疑者が招致委員会から約8億9,000万円相当の資金を受け取り、IOC委員らにロビー活動をおこなっていたことがロイター通信の報道で明らかになっているが、それとは別に嘉納治五郎財団を介した招致工作ルートがあったということだ。嘉納治五郎財団は「スポーツ国際交流・協力等の活動を通して国内外のスポーツの発展を図る」と謳いながら、2020年12月末になって活動を終了させており、怪しさが漂っていた。

当然、検察は巨額資金が動く東京五輪をマークしていただろう。しかし、捜査には慎重を期す必要があった。

東京五輪は「アベノミクス4本目の矢」として安倍元首相が力こぶを入れていた国家事業であるからだ。これを支えたのが当時の菅官房長官や、森元首相ら政界の大立者だった。

しかし、安倍元首相の死によって状況は一変した。その“重し”が外れ、動きやすくなった検察は五輪捜査を本格化させ8月17日、高橋元理事を受託収賄の容疑で逮捕、AOKIの青木前会長ら3人を贈賄容疑で逮捕した。

同23日、スポンサー契約をめぐって高橋容疑者が森氏に青木容疑者を紹介したという毎日新聞のトクダネが出たが、そのころ、司法記者たちは森氏を念頭に、検察関係者へ“夜討ち朝駆け”で取材合戦に及んでいたはずだ。産経のスクープもそんな状況のなかで掴んだのだろう。

しかし、ここで疑問が湧く。産経は自民党「清和会」と親密なはずである。いくら社会部の司法担当記者がトクダネだと意気込んで出稿しても、政治部、あるいは経営陣から「待った」がかからなかったのだろうか。記事が日の目を見たのはなぜか。

理由として思い当たることの一つは、産経新聞内部の力関係の変化だ。きっかけは2017年6月、大阪社会部育ちの飯塚浩彦氏(現会長)が社長に就任したことだった。当時の政治部長、石橋文登氏は希望退職に応じて社を去った。大阪社会部時代の先輩にあたる飯塚氏が社長になり、極端に右に寄った論調をややマイルドに修正しようとしたことを嫌気したのではないかとみられる。

石橋氏は、安倍元首相に最も近い記者であり、産経新聞が親安倍路線を続けてきた原動力だった。その人物が社外に出たことで、政治部の発言力が弱まり、社論に影響を与えているのではないだろうか。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • 自民と親密な産経新聞に「森元首相へ200万」スクープが掲載された理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け