今回の演習では、中国のミサイル5発が日本の排他的経済水域内に初めて落下し日本にも緊張をもたらした。日本政府が抗議し、これを受け中国は、「日中両国は関連の海域で境界をまだ確定しておらず、日本のEEZという言い分は存在しない」と述べた。さらに、日本を含む先進7カ国(G7)外相が台湾情勢に関する共同声明で「中国を不当に非難」したため、林芳正外相と王毅国務委員兼外相との会談を直前になって中国が中止を申し出た。
また、日米豪の外相が中国による一連の軍事活動を取り止めるよう共同声明を発表したのに対し、中国は米中両軍の幹部同士の電話協議の中止など、8項目の対米報復措置を発表した。さらに8月の4日間で中国軍機113機が「中間線」を100回以上越えており、中国側は「中間線」を徹底的に打ち破ったと報道している。
米軍の資料によると、中国軍が保有する主力戦闘機は米軍がインド太平洋に配備している数の5倍に達しており、2025年には約8倍になる見通しだ。主力戦闘艦艇では、在インド太平洋米軍の約5倍で2025年には9倍を見込んでいる。さらに2025年、潜水艦では6倍強、空母は3倍にまで増えると予想されている。
2006年から世界の軍事力を独自の分析でランキングしているグローバル・ファイヤ─パワー(GFP)の2022年の世界の軍事力ランキングで米軍は1位で、ロシア、中国と続く。米軍は世界各地に基地を持ち、総力では中国を大幅に上回っているが、中国、台湾からの距離は遠く即座に対応することは難しい。
一方で中国は南太平洋の進出に関心を強め、キリバス、ソロモン諸島、フィジー、トンガ、サモア、バヌアツなど王毅外相が島嶼国8ヵ国を訪問し経済協力拡大などを約束してきたばかりで、南太平洋も中国と日本、アメリカ、オーストラリアなどの間で権益争いが激しくなりそうだ。
アジア太平洋でもう一つ気になるのは、インドの台頭だ。インドの人口は14憶1200万人で中国より1000万人ほど少ないが、来年には世界最多の人口大国になることが国連の見通しで明らかにされている。人口は国力の源だ。アメリカがなお力を有しているのは、軍事力や経済力に負うところが多いが、実は世界の人口大国であり、移民大国である点が大きな背景でもあるのだ。
インドと中国は世界一、二を争う人口大国だが、両国は50年以上にわたり中印紛争を抱えている。もしインドと中国が手を結ぶようなことになれば、それこそアジア太平洋どころか、世界の勢力図が大変動を起こすことになろう。しかし、今のところは、中・印より米・中の緊張増大の方が気になるといえよう。
この記事の著者・嶌信彦さんのメルマガ
image by:somkanae sawatdinak/Shutterstock.com