党首討論でもウソ八百。野田元首相「安倍氏追悼演説」で語られなかった“負の側面”

2022.10.31
 

それから3年あまりが過ぎた2016年2月19日。野田氏は衆院予算委員会で、野党議員として安倍首相との「直接対決」に臨んだ。野田氏が質問したのは、あの「党首討論の約束」についてだった。

「安倍さんは『2013年の通常国会で、定数削減を含む選挙制度改革をしっかりやりますよ』と言った。その約束を受けて、私はあなたから要請のあった衆院を解散する約束を果たしたんです」「ところが、約束したはずの定数削減は、残念ながら実現できませんでした。できないまま今日に至っている」

安倍氏は4分近くも、質問に関係のない話を延々と語ったあげく「定数削減を言うのは簡単ではありますが、実際に実行するのは簡単ではない」と述べた。

答弁を聞いた野田氏は「一言くらい、国民の皆さまにおわびの言葉くらいあるのかと思ったら、驚きましたよ今の答弁」とあきれたように述べると、例の合意文書をパネルに示して、改めて安倍氏の見解をただした。これに対する安倍氏の答弁がこれだ。

「私たちは(12年の)衆院選で勝った。皆さんは負けた。そのこともかみしめていただきたい」「これは共同責任です。3党がそれぞれの責任をかみしめなければいけない」

ヤジに包まれる議場。野田氏は語気を強めた。

「いやあ『びっくりぽん』ですね。本当に驚きますね。これでは前向きな議論できないですよ」「天下の総理大臣にこんなことは言いたくないが、2013年までにできなかった、ということは、国民にウソをついたことになるんですよ。それに対する痛みも責任感も感じない今の答弁には、私は満身の怒りを込めて抗議したいと思います」

野田氏の追悼演説は、結果として首相当時の安倍氏のさまざまな国会答弁の数々を、まざまざと思い出させた。この日のやり取りもそうだし、その後のコロナ禍における国会での振る舞いまでも、一気に記憶がよみがえった。

追悼演説で野田氏は、安倍氏の答弁について「少しでもすきを見せれば、容赦なく切り付けられる」と振り返った。実際、首相時代の安倍氏は、国会で野党の質問に真摯に答弁するどころか、時にはヤジまで飛ばして質問者をこき下ろしてきた。

そもそもこういう言動自体、議会における首相の「あるべき姿勢」ではない。国会は野党が国民を代表して質問し、政府は誠実に答弁するのが、それぞれに与えられた役割だ。質問者の後ろには国民がいる。質問者に「容赦なく切りつける」のは、国民を罵倒しているのと同じであり、政府のトップとして恥ずべき行為である。

安倍氏が質問者攻撃に走るのは、突っ込まれたくないことがあるからだ。前述の野田氏とのやり取りでいえば、衆院解散と引き換えに約束した「次期通常国会での定数是正」を反故にしたことである。

約束を実現できない政治力のなさも問題だが、率直に対応の遅れをわび、約束の誠実な履行を誓う場面でもあれば、まだ救いがある。だが、安倍氏はそれをしない。失政の責任を決して認めない。「誰かだけに責任があるわけではない」という答弁は、その後のコロナ禍の際に記者会見で言い放った「私が責任を取ればいいというものではない」という発言を思い起こさせる。

安倍氏はこうして、国会や政治全体における「ことば」を壊し続けた。都合の悪い問いに答えず、関係ない答弁を長々と振りかざして質問時間を浪費する。質問者に敬意を払うどころか、逆に攻撃を繰り返す。「私たちは(選挙に)勝って、(野党の)皆さんは負けた」などと答弁席で言い放つ姿は、見るに堪えるものではなかった。

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