大手メーカーが“見放した技術”を再生。アラジン「高級トースター」人気の秘密

2022.11.04
shutterstock_180086666
 

温かみのあるデザインもさることながら、他社製品を寄せ付けない圧倒的な性能で好調な売れ行きを記録するアラジン・グラファイト・トースター。しかしユーザーを虜にする焼き上がりを支えているのは、開発した大手企業から見放された技術でした。今回、そんな技術を買い取り人気の高級トースターとして「昇華」させた株式会社千石の成功への道のりを紹介しているのは、神戸大学大学院教授で日本マーケティング学会理事の栗木契さん。栗木さんは記事中、同社の取り組みを分析するとともに、その成功事例が問いかけているものを提示しています。

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

アラジン・トースターは、市場性が見いだせない技術をどのように再生したか

グラファイト管搭載の高級トースター

アラジン・グラファイト・トースターは、2015年に発売された高級調理家電である。兵庫県加西市に本社を置く株式会社千石が手がける。アラジン・トースターには、特許技術の遠赤外線グラファイト・ヒーター管が搭載されており、外はカリカリと、中はモチモチにトーストを焼くことができる。パン・ブームなどを追い風に、おいしいトーストを焼くことができるトースターとして人気を集めている。

アラジン・トースターは、丸みを帯びたレトロな外観で、トースターとしては珍しい、緑のカラーも用意している。これは暖房機のブランドとしての歴史をもつアラジンの特徴を踏まえた展開であり、本物感(オーセンティシティ)を醸成することにつながっている。

千石は、長らく大手メーカーなどから生産委託を受けるOEM企業として、各種家電の製造を行ってきた。現在の千石の売上高は180億円。アラジン・トースターの販売が順調に拡大したことで、自社ブランド事業がOEM事業と並ぶ千石の新しい柱に育っている。現在では自社ブランド事業が千石の売上高の4割ほどを占める。

そもそもは自社で開発した技術ではない

なぜ、一地方のOEM企業が、このような事業転換を果たすことができたのか。しかも、グラファイト管もアラジンも、従前は市場性が乏しいと思われていた技術であり、ブランドである。弱者の掛け合わせが、どのような化学反応を生みだしたのか。

グラファイト管は、そもそもは千石ではなく、他の国内の大手企業が開発した技術である。そしてこの技術を千石が購入することになったことから、アラジン・トースターが生まれる。

グラファイト管は、短時間で一気に高温となり、かつ発熱温度を最適にコントロールすることも容易である。熱源としての優れた特性をもつグラファイト管だが、問題もあった。グラファイト管は一般的なヒーター管よりも製造コストが高い。短時間で一気に高温となるグラファイト管は、加熱調理や暖をとるのに適しているとはいえ、市場では消費者に安価な類似品との比較のなかで選択される。いかに熱源として優れていても、価格が高ければ市場性は弱くなる。

こうした問題から、この大手企業は、開発したグラファイト技術を手放すことを決断し、それを千石が購入した。2012年のことである。とはいえ、千石もグラファイト管の用途が見えていたわけではない。その後は自社の暖房機などに採用して、細々とした販売を続けていた。

print
いま読まれてます

  • 大手メーカーが“見放した技術”を再生。アラジン「高級トースター」人気の秘密
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け