大手メーカーが“見放した技術”を再生。アラジン「高級トースター」人気の秘密

2022.11.04
 

そこに各種の創意工夫を重ねてみると

そんなある日、千石の社内で、グラファイト管を使ってパンを焼いてみたところ、うまく焼けた。これをきっかけに千石は、トースターの反射版などに工夫を重ね、超短時間で高温を実現するグラファイト管の利点をうまく引き出すことに成功する。

とはいえグラファイト管は高価格であり、通常のトースターよりは当然価格が高くなる。大手企業にOEMで供給することを提案してみたが、断られた。課題はやはり価格だった。

千石は、グラファイト管のトースターの開発にはこぎつけたが、この高価な製品を自社で販売せざるを得なくなった。そこで千石が活用することにしたのが、社内にあったアラジンというブランドである。このアラジンというブランドも、外部から購入したものだった。アラジンには魔法のランプという火にまつわるイメージがあり、80年ほど前からイギリスやアメリカで暖房機などのブランドとして使われてきた。日本でのこのアラジン・ブランドの権利を長らく有していた企業から、千石が2005年に買収し、暖房機のブランドとして用いていた。

しかし、千石がグラファイト管を用いたトースターを開発した時点では、アラジン・ブランドの主力製品はクラシックなスタイルの昔懐かしい石油ストーブであり、その販売は細々としたものだった。固定ファンはついてはいたが、その知名度は限定的だった。

一方で、調理家電の高級化は、当時の国内市場のひとつのトレンドとなっていた。千石は、アラジン・ブランドとグラファイト・トースターの特性を訴求するためのプレスリリースなどに力を入れ、報道やSNSなどによる情報拡散をねらうことにした。こうしたプレスリリースなどの取り組みは、千石にとっては初めての経験だった。しかし、ブランドとしての知名度を高めることが不可欠と考えた担当者が社内を説得し、実現した。

そして千石は、アラジン・トースターの発売当初は、販路をオンライン直販と百貨店に絞ることにした。他社のトースターとの価格差が消費者に購入をためらわせる恐れが低いチャネルを選択したのである。そしてそこで実績をつくった後に、千石はアラジン・トースターの販路を家電量販店などにも広げていく。

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