ポーランドミサイル着弾事件の濡れ衣をロシアに着せようとしたのは誰か?

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11月15日に発生した、2人の民間人が死亡したポーランドへのミサイル着弾事故。ロシアによる故意の攻撃も疑われ一時は世界大戦の勃発も懸念されましたが、「ウクライナの誤射」が真相と見て間違いないようです。一体誰がどのような意図で、ロシアに濡れ衣を着せようとしたのでしょうか。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、その真相解明を試みています。

ウクライナ戦争を世界大戦に発展させる

11月15日の午後、ポーランドの対ウクライナ国境近くのプシェボドフ村に1発のミサイルが着弾し、村の2人が死亡した。ミサイルはウクライナから飛んできたものだった。ロシアとの戦場になっているウクライナの上空は、防空レーダーなどによってNATOに詳細に監視されている。ウクライナからポーランドに飛んだミサイルは、瞬時にNATOによつて確認され、即時にポーランドを含むNATO加盟諸国に伝達されたはずだ。だがポーランド政府(外務省)は事件発生後まもなく、着弾したのは「ロシア製のミサイル」だと発表し、ポーランドに駐在するロシアの大使を呼びつけて詰問した。

NATO’s hair trigger: The Polish missile incident was a close brush with nuclear annihilation
2022 missile explosion in Poland – Wikipedia

実のところ、着弾したのは「ロシア製」でなく、ロシアの前身であるソ連が開発したS300地対空迎撃システムのミサイル(5V55)だった。S300はソ連時代にロシアやウクライナなど旧ソ連諸国に配備され、ウクライナは冷戦後にソ連から独立した後もそのままS300を使用し、ミサイル部分は自国のキエフ工場で製造してきた。ポーランドに着弾したのは「旧ソ連が開発したウクライナ製のミサイル」だった。ミサイルの胴体部分にはウクライナ語で製造番号などが記載されており、プシェボドフ村に着弾し爆発したミサイルの破片もウクライナ語の製造番号が読み取れた。ポーランド政府が着弾の現場を調べて「着弾したのはウクライナのミサイルのようだ」と言い直したのは事件発生から1日たった後で、それまでポーランド政府は不正確なロシア犯人説を言い続けていた。

NATO Admits Zelensky ‘Openly Lied’ About Poland Strike as Observers Slam Kiev for Pushing for WW3
Missile incident was Ukrainian ‘provocation’ – Polish politician

ウクライナ戦争の戦闘がNATO加盟国に飛び火したのは2月の開戦以来、これが初めてだった。ポーランド政府はロシアを非難するだけでなくNATOにも連絡し、加盟国であるポーランドの安全が脅かされているので条約の第4条を発動して対策を協議してほしいと要請した。「ロシアがミサイルを撃ち込んできたので、NATOとして反撃するかどうか協議してほしい」という意味だ。NATO4条の協議は、集団的自衛権の行使である5条を発動する際の前提となる。「ロシアが、NATO加盟国であるポーランドをミサイルで攻撃した」という歪曲話を「事実」とみなし、ロシアを敵として4条から5条への発動に進むと、米国が主導するNATOとロシアが世界大戦に突入する構図ができあがる。11月15日のミサイル騒動は、米露が戦う「第三次世界大戦」を引き起こすための「トンキン湾事件(ベトナム戦争を誘発した捏造の事件)」になりかねなかった。

Deep breaths: Article 5 will never be a flip switch for war
Analysts: Poland Operating on ‘Hair Trigger’ Seeking Any Excuse to Drag NATO Into Ukraine Conflict

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