防衛費増の財源に増税を持ち出した岸田首相。自ら選んだ閣僚が次々と辞任する事態も影響して支持率は低迷を続けています。そんな岸田首相に「典型的な世襲のボンボンで自分がない」と厳しい言葉を浴びせるのは辛口評論家として知られる佐高信さん。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、大平正芳元首相と親しく、「沖縄返還密約」を暴いた元毎日新聞記者の西山太吉氏の岸田評を紹介。現在岸田派と呼ばれている「宏池会」本来の重要な精神やバランス能力が欠如していると嘆いています。
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「沖縄返還密約」を暴いた元毎日新聞記者の西山太吉、90歳の怒り
「沖縄返還密約」を暴いた元『毎日新聞』記者の西山太吉と対談して『西山太吉 最後の告白』(集英社新書)を出した。
西山は田中角栄と共に日中国交回復を成し遂げた大平正芳に食い込み、ほぼ一心同体だったが、大平は池田勇人がつくった自民党の政策集団「宏池会」を前尾繁三郎と共に具体化した政治家だった。言うまでもなく、現首相の岸田文雄も宏池会を名乗っているが、骨のない軟体動物だ。
前掲書で西山は「自らの思想、信条をきちんと持ちながらも、物事を多元的、相対的に考え、全体のバランスを取り、落としどころを調整するのが宏池会の精神だ」と語っている。
そして、「この宏池会精神は、それこそ今の日本に最も重要な政治手法だと私は思うが、岸田にはこれが致命的に欠落している」と断定する。防衛費拡大でも安倍晋三の言うがままだと憤慨し、こう続けている。
「私の知っている宏池会とは似て非なるものですよ。宏池会は絶対追随しません。だから、岸信介政権の新安保条約(安保改定)に対し、距離を置いて冷静に見ていた。積極的には賛成しなかった」と指摘する。
岸の弟の佐藤栄作が沖縄返還を急いで自分の手柄としたが、佐藤に反対した大平は西山に「米国側の希望は(基地の)自由使用だからなあ」と嘆いたという。いわば国益を無視して返還を実現させた佐藤がノーベル平和賞をもらってしまったのだから唖然とするしかない。「悪貨は良貨を駆逐する」なのか。
「沖縄返還では情報を流すというやり口だった。すなわち国民には虚無の情報を流すというやり口だった。ところが森友(事件)では、公文書の改ざんだ」と怒る西山に私が「財務省の改ざん事件なんかを見ると、自分のあの事件の延長だなという感じがしますか」と尋ねると、西山は「全くその通りだよね、体質は変わっていない」と答えた。
早稲田大学法学部出身の『朝日新聞』記者が岸田と会って、自己紹介がわりに、早大法学部の後輩だと挨拶したら、岸田は「私は開成高校なので」と返したという。岸田のアタマは高校で止まっているのだろう。
『ZAITEN』2023年1月号の「佐高信の賛否両論」に登場してもらったラサール石井にその話をしたら、彼は「イヤミな人だなあ」と笑い、こう続けた。
「嘘でも『後輩かあ、嬉しいね』と言えばいいのに。ただ、あの岸田さんの顔にちょっと騙されそうになりますよね。真面目で仕事のできる経理課長みたいな感じ。ちょっとはマシかなって思うんだけど、実は全然そうじゃない。むしろ能力が低いかもしれない。それが怖いですね」
やはり、典型的な世襲のボンボンなのである。サラリーマン的な八方美人で、自分というものがない。中曾根康弘に対抗して護憲を貫き通した宮沢喜一を尊敬すると言うが、宮沢の護憲論をまともに読んだとは思えない。
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