DXをまったく理解していない日本の経産省。世界的エンジニアが違和感を抱いたワケ

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重要性が叫ばれはしているものの、そもそもその何たるかが完全に理解されているとは言い難いデジタル・トランスフォーメーション(DX)。それは国とて例外ではなく、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニアの中島聡さんも、経産省が行っている「DX認定制度」に違和感を抱いているといいます。そんな中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で今回、Amazonを例に取りDXの定義を解説。さらに国が日本を救うために取り組むべき5つの具体的政策を提示しています。

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プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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何かが根本的に間違っている経産省「DX認定制度」への違和感

先日、たまたま経産省が行っている「DX認定制度」のことを目にしたのですが、何かが根本的に間違っているように感じたので、その違和感について書きます。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術により社会やビジネスが大きな変革を起こすことを指します。単なる「既存のビジネスのデジタル技術を使った効率化(デジタル化)」と違って、ビジネスのやり方やビジネスモデルそのものが根本的に変わり、その業界で活躍する企業が大幅に入れ替わるのが特徴です。

良い例が、書籍の販売ビジネスです。従来は、書店を構え、そこに来た顧客に対して書籍を販売するのが一般的なビジネスでした。品揃えは少ないけれども、駅前などの立地条件で勝負する小規模店舗と、豊富な品揃えを持つ大規模店舗が存在し、日本では紀伊國屋書店、米国では、BordersやBarnes & Nobleが大規模店舗を複数持ち、大きなビジネスをしていました。

その書籍販売ビジネスにDXを起こしたのが、Amazonです。Amazonは、実店舗を持たず、オンラインで書籍を販売するというビジネスモデルにより、「どんな大規模店舗よりも品揃えが豊富」「家から一歩も出ずに書籍を購入できる」「他の人の評価を見ることができる」「店舗費用や人件費が不要なので、通常の書店より安く売ることが出来る(小売価格が固定されている日本は例外)」などの新たな付加価値を提供することにより、消費者にとっての「書籍の購入体験」を根本から革新することに成功したのです。

既存の大規模書店も、書籍のオンライン販売を始めるなどの対応策は施しましたが、実店舗を持たず、優秀なソフトウェアエンジニアを雇ってソフトウェアで勝負するAmazonにコストでも機能でも対抗することは出来ず、倒産、もしくはビジネスの縮小を強いられています。

このケースがDXを理解するのに適しているのは、DXがいかに既存のビジネスにとって厳しいものかが明確な点です。多くの不動産と従業員を抱えていたことがAmazonと戦う上で大きな足枷になったことに加え、実店舗に来てくれている顧客からの売り上げを失う訳にはいかず、既存のビジネスを抱えたまま、新しいビジネスモデル(書籍のオンライン販売)を取り入れたとしても全く不十分だったのです。

Amazonはさらに、利益の全てをソフトウェア・システム、ロジスティックス(流通、在庫管理など)、コンテンツへの投資へと回し、既存の書店からビジネスを奪っただけではなく、書籍以外の物品の小売・卸売・流通に根本的なまでの改革をもたらす、巨大な企業に成長することに成功したのです。

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