DXをまったく理解していない日本の経産省。世界的エンジニアが違和感を抱いたワケ

 

同じことは、タクシー業界・レンタカー業界に対抗するUber/Lyft、レンタルビデオ業界に対抗するNetflix/Huluに関しても言えます。タクシー会社はスマホ予約システムを導入したところで、根本的にビジネスモデルが異なるUber/Lyftとは戦えず、レンタルビデオ業界も似たようなサービスを始めたところで、NetflixやHuluとは戦えないのです。

これらのことを踏まえて考えれば、経産省が行っている「DX認定制度」がいかに無駄で馬鹿らしいものであるかが分かると思います。国が行うべきことは、既存のビジネスの「デジタル化支援」ではなく、既存のビジネスにデジタル技術を活用した新しいビジネスでチャレンジするベンチャー企業の育成・支援でなければなりません。紀伊國屋書店やBordersが「DX認定」を取ったとしても、根本的に異なるビジネスモデルで攻めてくるAmazonと戦えるはずがないのです。

国が考えるべきは、既存のビジネスを守ることではなく、どうやったら Amazon/Uber/Netflixのような「次の時代を担う企業群」を日本から誕生させるか、なのです。

具体的な政策としては、

  • 新規参入を妨げている規制の緩和
  • 人材の流通を難しくしている解雇規制の緩和
  • リスクマネーを増やす税制、金融政策
  • ソフトウェア・エンジニアを育成する教育改革
  • 貴重な理系の人材を上手に活用できていない、ITゼネコンの解体

などが考えられます。

日本には、既存の企業を守るためのさまざまな法律がありますが、それが新規参入を困難にし、日本を「ベンチャー企業が活躍しにくい国」にしてしまっているという事実があります。その背景には、政治家と企業の癒着、既得権者から構成される有識者会議、役人の天下り、星の数ほど作られてしまった特殊法人などがあり、それらの壁をぶち壊して効果のある規制緩和を行うことは簡単ではありませんが、これ抜きでは、日本のベンチャーが活躍することは不可能です。

解雇規制の問題については以前から何度も触れていますが、昭和の時代から残る終身雇用性が、正社員と非正規社員という階級制度を日本に作り出し、それが結果として、優秀な人材を競争力を失った大企業に縛り付けることになっている点は否定出来ません。大学卒業時に得た「解雇される心配のない大企業の正社員」という地位を失いたくないばかりに、ベンチャー企業への転職など考えもせずに、今の職にしがみつかざるを得ない人が日本には大量に存在するのです。

この状況を変えるには、解雇規制を大幅に緩和し、正社員と非正規社員の間の垣根を排除し、企業は必要な人材だけを雇用し(つまり、不必要な人、生産性の低い人は解雇し)、雇用される側も常に自分にとって最適な職場を探し続ける、という米国形の対等な雇用関係へとシフトする必要があるのです。

当然ながら、それにより失業者も増えますが、それは失業保険などの社会保障システムでサポートすべきであり、雇用規制によるいびつな労働者の保護をこれ以上続けても、日本経済全体にとって良いことはありません。

リスクマネーを増やす政策に関しては、徐々に良い方向に進んでいるように見えますが、ベンチャー・キャピタル業界で投資判断をする人たちが金融業界出身の「サラリーマン」ばかりである限りは、大胆な投資は難しいので、そこには発想の転換が必要です。日本政府と金融業界の距離の近さを考えれば仕方がないのかも知れませんが、「自ら事業をゼロから起こした経験のある人たち」がベンチャー投資を主導できる環境作りが必要であることを、政府も金融関係者も意識すべきです。

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