2016年に日本政府が第5期科学技術基本計画で打ち出した、「society 5.0」なる概念。しかしその何たるかは、閣議決定から7年近くが経過した現在となっても国民に周知されているとは言い難いのが現状です。そんな「society 5.0」についてわかりやすく解説するのは、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』で今回、ご自身による「society 5.0」の新たな定義とその魅力的なビジョンを綴っています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
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私なりに考えた、日本政府第5期科学技術基本計画「Society 5.0」の新定義とビジョン「Society 5.0A」を語ろう
私も「有識者」の一人として協力させていただいた、Web3.0政策推進室から「Web3.0事業環境整備の考え方」という資料が発表されたので、目を通したのですが、そこに「Society 5.0」という言葉が何度か出てくるので、少し調べてみました。
Society5.0とは、日本政府による「第5期科学技術基本計画(2016年)」のキャッチフレーズであり、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、新たな未来社会」のことだそうです。
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、という意味で、Society 5.0と呼んでいるあたりのセンスは、悪くないと思いますが、Web3ほど浸透はしていません。私にとっても、初耳ではないような気がしますが、全く記憶に残っていなかったので、マーケティングとしては失敗と言えると思います。
実際のところどうだろうと、Twitterでアンケートをとったところ、以下のような結果でした(801票)。
- 何を意味するか理解している。 7.6%
- 漠然としたイメージしかない。 17.6%
- 聞いたことはあるが、意味は知らないし、興味もない。 14.1%
- 聞いたことがない。 60.7%
日本政府が定義したSociety 5.0の説明を読んでいて思ったのですが、定義・目標・メリット・課題などが混在しており、それが分かりにくくしている原因だと感じました。特に、内閣府が使っている「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステム」という言葉が最悪です。ベンチャー企業であれば、「明確なビジョンが欠けている」状態にあります。
そこで、内閣府の資料は置いておいて、私なりのSociety 5.0を定義し、ビジョンを語ってみたいと思います。「情報社会(Society 4.0)の次のフェーズとしてのSociety 5.0」という大枠のアイデアは拝借しながら、私なりの再定義を行うため、「Society 5.0A」と呼ぶべきかも知れません。元の定義と重複する部分も多くありますが、あえて私の言葉で明確化し、魅力的なビジョンとしてより多くの人々に共感してもらうことが目的です。
Society 5.0で重要な役割を果たすのは、人工知能と、ネットに接続したドローンやロボット(自動運転車やインテリジェントなセキュリティカメラも含む)です。Society 4.0である情報社会は、パソコン・スマホ・インターネットの組み合わせによってもたらされた社会・ライフスタイルでしたが、いま誕生しつつある「人間を凌ぐまでの圧倒的な進化を遂げた人工知能」と「インターネットに常時接続されたドローンやロボット」が、人類全体を「次のレベル」まで進化させることは明確であり、それこそが「Society 5.0」なのです。
「Society x.0」を語る際に重要なのは、弓矢、言葉、文字、電気、モーター、通信、コンピューター、インターネットなどの「道具」を手に入れるたびに、「社会」を含めた人類全体が進化している、という意識です。つまり、「Society 5.0」を語る際には、人間の言葉が理解できる人工知能やドローン・ロボットによって、社会がどう変わるか、人類が地球に存在する種族としてどんな進化を遂げるか、という観点から語ることが重要なのです。
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