人工知能やドローン、ロボットが鍵。世界的エンジニア中島聡「今こそ日本政府“Society5.0”の新定義とビジョンを語ろう」

 

自動運転の車を呼び出し目的地まで

ちなみに、「人類の進化」と言っても、人類のDNAが変化する話をしているのではないので誤解しないでください。使う道具が劇的に変わることを「その種族の進化」と私が呼んでいるだけです。CRSPRの誕生により、人間のDNAが意図的に変化され始める時代が来るのも時間の問題だと私は見ていますが、それは「Society 6.0」の議論に取っておくべきであり、「Society 5.0」の議論に混ぜる必要はありません。

つまり「人工知能と、ネットに接続したドローンやロボットがもたらす大きな社会の変化」が「Society 5.0」の定義であり、それ以上でもそれ以下でもない点に注目してください。「サイバー空間とフィジカル空間の融合」は、ARグラスとそれを活用したアプリケーションの結果として起こるかも知れませんが、それが「Society 5.0」を定義づけるものではないのです。

ここからは、来たるべき「Society 5.0」の時代に、具体的にどんなものが実用化されるか・されるべきかを考えるステップです。SF小説を書くような気分で、思いつくままに書いてみます。

自動運転の実用化により、人が自動車を所有したり運転する時代は終わり、必要に応じて自動運転車を呼び出して、目的地にまで連れて行ってもらうことが可能になります。これにより、駐車場や信号が不要になり、街の様相が根本的に変わります。交通事故はほぼ皆無になり、高齢者が移動手段を失うこともなくなります。自動車の利用効率が圧倒的に上がり、自動車会社のビジネスは、自動車を販売するビジネスから、自動運転サービスを提供するものに変わります。

自動運転車が実用化されても、大量に人を運ぶ鉄道の役割がなくなることはありません。しかし、ここにも自動運転が適用され、10両編成の電車を30分おきに走らせるコストと、2両編成の電車を6分おきに走らせるコストがほぼ同じになります。つまり、今のようにニーズに応じて頻度を変化させるのではなく、ニーズに応じて車両の編成(場合によっては車両の種類)を変える時代になるのです。過疎化が進む日本の地方都市では、乗客が減少したローカル線の廃止が進んでいますが、自動運転車両を活用することにより、コストを抑えたローカル線の運営が可能になります。

高速道路を走るトラックも、自動運転車に置き代わりますが、空気抵抗を減らすために、列車のように連なって走るようになります。当然ですが、乗客を乗せた自動車も、そこに加わることになります。場合によっては、物理的に「連結」するほうがエネルギー効率が良くなる場合もあるでしょう。連結により空気抵抗を十分に減らすことができるようになれば、大型バスの存在意義がなくなり、それぞれの乗客は、自分のニーズとコストの見合いで利用する自動車を選ぶようになります。

高速道路料金は、自動運転車のサービス業車経由で自動的に徴収されるようになるため、料金所が不要になり、高速道路からの乗り降りも自由にできるようになります。結果として、高速道路脇の専用の休憩所は必要なくなり、高速道路の出入口付近の飲食ビジネスに取って変わります。

人間が食事をしている間、自動運転車を待たせておくことはもったいないことですが、一緒に運ぶ荷物(スーツケースなど)のことを考えると悩ましいところです。牽引式の荷物専用車両を活用することも可能ですが、荷物だけは別に送るほうが理にかなっているかも知れません。

ちなみに、荷物の配送も自動運転車やドローンによって行われるようになるため、コストは大幅に下がり、自由度が増します。「何時何分に届けてほしい」とか「目的地に着いたので、今から10分以内に届けて欲しい」などのワガママが言えるようになります。倉庫などの自動化も進むため、冬物を春先に倉庫に送っておき、冬が来る前に自宅に送り返してもらう、などのサービスが手軽に使えるようになります。

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