アベノミクスの“二の舞い”か?不安しかない岸田政権「異次元の少子化対策」の大問題

2023.02.16
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もはや「待ったなし」などという段階を遥かに超えた状況にある我が国の少子化問題。岸田首相は「異次元の少子化対策」を打ち出していますが、問題を思惑通りに解消することは可能なのでしょうか。立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さんは今回、岸田政権の少子化解消策を「カネをばらまく対症療法にすぎない」と強く批判。さらに日本が少子化に陥った根本原因を分析・解説するとともに、政府に対して具体的な解決計画を提起しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

岸田首相「異次元の少子化対策」の認識不足

通常国会が開幕した。岸田文雄首相は、「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。「少子化問題」が日本の最重要課題の1つであることはいうまでもない。それに、岸田首相が取り組むという決意を表明したこと自体はいい。だが、胸を張っていえることじゃない。

「少子化問題」は、少なくとも1980年代には広く社会で認識されるようになり、1995年度から政府が本格的な対策に着手していた。育児休暇制度の整備、傷病児の看護休暇制度の普及促進、保育所の充実などの子育て支援や、乳幼児や妊婦の保健サービスの強化などを進めてきた。だが、合計特殊出生率は下落を続け、2021年は1.30人である。また、2022年の日本の出生数は80万人を割り込む見込みだ。

要するに、政府は20年近く取り組みながら、十分な効果を上げられなかったということだ。この連載で批判してきたが、自民党はほとんどの政策課題に取り組んではいる。だが、問題は「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」ことだ。

また、「異次元」と謳っていることも気になる。「異次元」といえば、安倍晋三元首相の経済対策「アベノミクス」だ。だが、アベノミクスは金額が異次元だっただけで旧来型のバラマキ政策だった。輸出産業など斜陽産業を延命させるための「対症療法」だったといえる。日本経済を本格的に復活させる新しい産業を生み出す、いわば本質的に経済を改革する「原因療法」と呼べる規制緩和や構造改革は十分に行われなかった。

「異次元の少子化対策」は、アベノミクスによく似ている。まず、岸田首相が掲げた政策が「3本の柱」で成り立っていることだ。

  1. 児童手当を中心とする経済的支援強化
  2. 幼児教育や保育サービスの支援拡充
  3. 働き方改革を、将来的に予算を倍増させて実現する

いずれも既存政策の拡充だ。それを「異次元のバラマキ」でやろうとする。

掲げた3本の柱が、すべて子どもが誕生した後に、その子どもや親の生活をサポートする「子育て支援策」であることも問題だ。子育てにおカネがかかる親にとっては、子どもに本や衣類などが買えるので助かるだろう。だが、それでもう1人子どもを持とうとは思わないという声はすでに出ている。ましてや、結婚したいのに経済的理由でできないでいる人たちや、子どもを持てない人は対象外なのだ。これは「少子化対策」ではない。

要は、前の前に見えている子育ての問題を収めるために、とりあえずカネをばらまくという「対症療法」にすぎないのだ。「少子化問題」の本質的な解決を図ろうしていない。このあたりもアベノミクスに似ているのだ。

「少子化問題」の本質的な解決とは、希望しながら結婚できない人を減らし、子どもを持てない人たちを減らすことである。これまで、なぜ歴代の政権はそれに取り組むことができなかったのだろうか。それは、自民党内などの「保守派」にとって受け入れがたい改革を行うことになるからである。

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