ロシアへの「武器支援疑惑」で中国を揺さぶり始めたアメリカの“狙い”

Shutterstock_2264967977
 

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過し、欧米はウクライナへのさらなる武器支援を約束。一方で中国によるロシアへの武器支援疑惑を喧伝し、メディアもその論調に乗って中国を揺さぶっています。この状況を「デジャブ」と語るのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、1年前にも確証のないまま同様の疑惑を騒ぎ立て、その後に打ち消していたと指摘。アメリカによる中国のイメージを悪化させる戦略が繰り返されているとして、その狙いを解説しています。

気球の次は「ロシアへの武器支援」で中国を揺さぶり。わかりやすい対立の裏で交錯する各国の動き

一部のメディアで報じられ、注目も集めていた中国の習近平国家主席のウクライナ侵攻1年を受けた平和に関する演説は、見送られた。代わって中国外交部から発せられたのが「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」(=12項目提案文書)だった。

停戦の見通しが立たないウクライナ情勢を受けて、中国の役割を期待する声もあったが、この「12項目提案文書」に対する国際社会の反応は芳しくない。「具体性を欠く」、「従来の主張をまとめただけ」、「行動がともなわない」といった批判の声がメディアでも目立つ。

だが、そもそも中国は自らの手で即座に停戦が実現できるとは考えていないのだろう。ロシアとウクライナはともに、話し合いのハードルを非現実的なレベルにまで上げてしまっていて、双方の国民も戦争を続けるそれぞれの政権を高く支持しているからだ。

ウクライナ国民を対象に行ったある調査では、国民の95%が「最後にウクライナが戦争に勝つ」と信じているとされ、ゼレンスキー大統領への支持も90%に達している。一方のロシアも、プーチン大統領への支持が72%を下回った(最高は81%)ことはないのだ。

さらに中国にとって厄介なのは、アメリカだ。中国の目から見れば戦争のほぼ当事国であるアメリカが、習近平にそんな名誉な役割を担わせるはずはないからだ。そのことは中国がアメリカの別動隊と見る北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が、「中国はそもそも信用されていない」と早速「12項目提案文書」を腐したことでもよく分かる。

唯一、アメリカが納得する仲介があるとすれば、それは中国がロシアを批判しウクライナの味方として仲裁に立つ場合だ。つまりそれは、アメリカが警戒する中ロ関係が破壊され、ロシアも弱体化するというバイデン政権にとって一石二鳥のケースだけだ。2014年には中国もそれに近い選択をしたが、いまや時代は違う。アメリカの次のターゲットが中国であることは自明だからだ。

そもそもバイデン政権は、中国の建設的な役割など望んではいない。中国とロシアを反目させ、それがかなわなければ、ロシアの同類として国際社会から孤立させたいからだ。

筆者も1年前、同じ内容の原稿を書いた。まるでデジャヴだ。そしてデジャヴといえば、「中国がロシアに兵器の支援をする」という疑惑をアメリカの政府高官が、ここにきて声高に叫び始めたこともそうだ。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • ロシアへの「武器支援疑惑」で中国を揺さぶり始めたアメリカの“狙い”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け