さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。
金子氏を栄光なき天才にしてしまい、世界の最先端を走っていたP2P技術の商用化を遅らせる国家的損失を招いた元凶として、厳しい日本の著作権法とそれをさらに厳格に適用する法執行機関の対応があげられる。ウィニー事件で地裁の有罪判決を覆した高裁判決を支持し、無罪を確定した最高裁判決は、法執行機関の性急な捜査・起訴を戒めた
オラクルとグーグルのスマホ向けOSアンドロイドをめぐる著作権侵害訴訟で、最高裁はオラクルの1兆円の損害よりも社会全体の利益となるイノベーションを優先させ、グーグルのフェアユースの主張を認めた(2021年の米最高裁判決)
シリコンバレーに味方した「信頼のあるビジネス法」の極め付きはなんといっても著作権法である。米著作権法には利用目的が公正であれば、著作権者の許諾なしの利用を認めるフェアユース規定がある
ユーチューブが世界的にヒットした要因にはフェアユースもあるが、1998年に制定されたデジタル・ミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act, 以下、「DMCA」)も強力な援軍となった。DMCAの大きな特徴が、検索エンジン、動画サービスなどのサービス・プロバイダーは著作権侵害の責任を負わなくてもいいという条項である
対照的に日本のプロバイダー責任制限法はDMCAほどプラットフォーマーに好意的ではないが、裁判所もそれを厳格に適用する傾向があるため、プラットフォーマーが育たず、米国勢に日本市場まで草刈り場にされてしまっている
「金子勇との7年半」に寄せられた、ひろゆき氏のコメント
LINEでの動画共有とかビットコインなどの仮想通貨とか、P2Pといわれる技術が使われています。その最先端がWinnyでした。金子さんがいれば、日本で発展した技術が世界で使われて、世界中からお金が入ってくるみたいな世の中にできたかもしれなかったんですけどね
技術開発への萎縮効果を招かないためにも、わが国の司法に求められるのは、米国の裁判所のような司法府の役割を十分わきまえた対応である。具体的には新技術に対して、罪刑法定主義の観点からだけではなく、イノベーションが著作物の市場を変えることも想定して、判断を立法府にまかせた対応である
ご存知の通り、金子勇氏は、7年半後に無罪を勝ち取りますが、その間、日本は欧米にIT分野で大きく遅れを取ることになりました。
そして悲劇的なことに、本来なら日本を率いるはずだったこの天才プログラマーは、2013年7月に、42歳の若さで亡くなってしまうのです。
この事件を風化させないためにも、また衰退する日本の本質的問題を知るためにも、本書は読むべき一冊だと思います。
映画、『Winny』と併せて、ぜひ読んでみてください。
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