なぜ韓国ユン大統領は日本に接近してくるのか?背景にある「3つの要素」

2023.03.23
 

日本より韓国に強い不満を滲ませてきたアメリカ

また、米国の存在がある。今回の日韓首脳会談について、米国は共通の地域的・国際的優先事項を推進する機会を生かせるようになると歓迎する姿勢を示したが、内心米国は歓迎というより安堵したのが本音だろう。

米国にとって日韓は共に価値観を共有し、軍事防衛条約を結ぶ同盟国であり、北朝鮮の核・ミサイル、それ以上に経済的かつ軍事的に台頭する中国に向き合うにあたり、同盟国同士が争う姿に米国は危機感を募らせてきた。米国が日本や韓国に抱いてきた気持ちは、「日韓双方とも領土問題や歴史問題で争っている暇はない。自らが置かれる安全保障環境を直視せよ」というところだろう。

そして、近年、米国は日本より韓国に対して強い不満を滲ませてきた。ムン前政権は日本と韓国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を通告する(その後、終了通告の効力が停止された)など、米国はムン政権に疑念を持ち、米韓関係は極めて悪化した。ユン政権は既にGSOMIAの正常化に着手しているが、米国が抱く強い不満を払拭するため対日関係の改善に努めている。

高まる中国の脅威。クアッドに接近したい思惑も

中国の存在もある。ユン政権になって以降、中韓関係は冷え込む傾向にあるが、韓国にとっても海洋覇権や台湾有事という問題は対岸の火事ではない。韓国の経済シーレーンも台湾周辺にあるので、台湾有事となれば韓国経済が被るダメージも計り知れない。

基本的に専制主義国家中国の極東アジアでの覇権は韓国にとっても深刻な問題であり、ユン政権としても今のうちから価値観を共有する日本や米国と関係を緊密化させ、日米豪印で形成されるクアッドなどに接近したい思惑がある。

なぜ日本は韓国への警戒心を捨ててはいけないのか

だが、このようなユン政権の狙いがあったとしても、日本はそれによって韓国への警戒心を捨ててはならない。過去の日韓関係を振り返っても、いいムードだった関係が一気に壊されたケースもある。

たとえば、イ・ミョンバク政権の時、同大統領は当時日本のメディア番組にも出演するなど日韓関係ではいいムードが流れていたが2012年8月にイ大統領が竹島を訪問したことで日韓関係は急速に悪化した。イ大統領が竹島を訪問した背景には低迷する支持率があり、国家ナショナリズムを高めることで非難の矛先を交わす狙いがあった。

また、韓国の大統領任期は1期5年であり、ユン政権に2期目はない。要は、ユン大統領の継承者が次期大統領になる保証はなく、ムン前大統領の政策理念を掲げるリーダーが選出される可能性もあり、ここに日韓関係において日本が抱えるリスクがある。日韓関係の改善は良いことだ。しかし、我々はこのリスクを忘れるべきではないだろう。

image by: 首相官邸

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

print
いま読まれてます

  • なぜ韓国ユン大統領は日本に接近してくるのか?背景にある「3つの要素」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け