「動物と触れ合うことは命のご飯」ムツゴロウさんが語っていたこと

 

5日“ムツゴロウさん”の愛称で人々に親しまれた畑正憲さんが、心筋梗塞で亡くなりました。動物と触れ合い続けた畑さんは生前、自身の生き方について語っていました。今回の『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、畑さんにインタビューした際の記事を掲載しています。

【追悼】ムツゴロウさん

2023年4月5日、「ムツゴロウさん」の愛称でお馴染みの作家・畑正憲さんが亡くなられました。87歳でした。

世界の秘境へ挑み、インドの泥水さえ飲み込んで、さらに獰猛な巨大動物と触れ合う。畑正憲さんの人生は、常に死ぬか生きるかの厳しい戦いと共にあったと言えるでしょう。

生きとし生けるものすべてに惜しみない愛情を注ぎ、多くの人々に生きる力を与えてくださった畑さんを偲んで、その独特の生き方の秘訣を語られた『致知』1992年7月号のインタビューをご紹介します。

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畑 「私にとってはどうも、裸になって動物と触れ合って生きるということは、自分が生きていくための命の栄養、『命のご飯』の一つのような気がしてならない」

──「命のご飯」ですか。

畑 「そう、体にご飯が必要なように、命にもご飯が要る、という気がするのです。だから、命が老いないためにも、成り上がらないためにも、悲しんだり、悩んだり、惨めになったりすることは、とても大切だと思う。

とくに日本の都会生活はいま、どこへ行っても金ピカになってしまった。大理石で固めた無機質の空間が多くなって、俗っぽく息づいている人間の命というものが、だんだん姑息(こそく)になり、ものの考え方とか感じ方が衰弱してきている。

そうすると、ヤケにいろいろなものが気になって、批判的になって、小さなことまで人に押しつけるようになるんです。

例えば、魚を釣るのは非常にかわいそうだとか、実験動物はかわいそうだ、といっている人がいるが、命が細くなってそういうことをいい始めている。切ないことだと思います。

大自然の生命、命というのは哲学とか思想というものを欲していません。思想は人間がつくったもので、共産主義が崩壊したのでわかるように、ファッションであって、どう見たっていつかは滅びる。

しかし、生命というのは何億年も続いた舞台の中で生きているものなんです。その舞台がなければ、何も反応しない、本当に俗な世界です」

──そういう俗な世界に裸で飛び込んで初めて命の尊さを知るということですか。

畑 「命は太陽の光が必要だったり、風が必要だったり、風が皮膚にどのくらい当たるかで反応してしまうのです。そうした命を持つ生き物とのつながりみたいなものに、自分の命を置くことに、私はこの上ない興味がある」

──まさに生命に触れておられるんですね。動物に接している時の先生の表情を見ると、真心こめて、誠心誠意接しているな、という感じを受けるのですが、それを厳しく超えている。

畑 「デレッとしていたら、はねつけられてしまいますからね。あふれる愛情を持っていても突っかかられて、ろっ骨を折ったという話もあります。分析力を持って、相手からの情報とこちらからの情報と柔軟に受け渡ししながら対応していかなければならない。

片時も油断できないのです。ちょうど、赤ん坊を母親が育てるときのように、まだ、抽象能力のない丸裸の頼りないものの要求を素直に聞いて、そして、満足を与えていくというようなことだろうと思います。

──それにしても、アマゾンの秘境を平気で旅したり、インドの泥水を飲んだり、獰猛な動物と触れ合ったり、そういうことができるという基本的な秘訣は何ですか。

畑 「常に気持ちが前向きであるということです。それが非常に大切です。

ほかにもいろいろな表現があると思います。『神に感謝する』といってもいい。

私が好きなのは、『いま、自分がここに生きていることに対して感謝する』というか、『生きている』という事実に対して、自分が前向きに喜んでいるということですね。わざとでもいいから『喜んでいる』ということが秘訣です」

──ああ、「楽」ということがポイントだ、と。

畑 「はい。それでないとやっていけないですね。

アマゾンの奥地で暮らすときでも、私は日本の食べ物を一切、持っていかない。当然ながら現地のものしか食べられないわけで、それを『おいしい』と思って食べる。一度でも『まずい』と感じたらもう駄目ですね。下痢はするし、風邪はひく。命を落とす羽目にさえなります。

だから、うそでも、景気づけでもいいから、『アッ、おいしいではないか、もっと持ってこい!』と一番先にやる。

そうすると、不思議に病気にならない。

だから、常にあらゆる環境を楽しんでしまうというところに、私は、人生を生き抜く秘訣があるように思います」

 

 

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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