発売から40年。いまでも長く世界中で愛され続ける「G-SHOCK」の開発は、大きな問題に阻まれ続けた道のりでした。今回の『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、その開発秘話を紹介しています。
「G-SHOCK」の知られざる開発秘話
G-SHOCKはこうして生まれた 伊部菊雄(カシオ計算機シニアフェロー) 『致知』2021年3月号
落としても壊れない丈夫な時計をつくりたい──。この純粋な思いに端を発して、世界初のタフネスウォッチ・G-SHOCKは誕生しました。
発売から38年経った現在、全世界の販売総数は1億2,000万本以上、超ロングセラー商品です。
高さ10メートルから落としても、巨大トラックの下敷きになっても壊れない耐久性を誇るこの時計の開発に私が挑んだのは、1981年、28歳の時でした。
新卒でカシオ計算機に入社し、時計の設計部で働いていたある日のこと。
職場の廊下で人とぶつかった拍子に時計が腕から外れ、コンクリート製の床に落ちてバラバラに壊れてしまいました。
その時、時計を失った悲しみよりも、「時計は落とすと壊れる」という“常識”を実体験できたことに感動してしまったのです。
その興奮冷めやらぬまま「落としても壊れない丈夫な時計」というたった一行の新商品提案書を会社に提出。
開発許可が下りたものの、提案前に基礎実験も行っていない、思い先行の提案でした。
インパクトを求めて、落下実験は腕の高さでなく、実験室があった3階のトイレの窓から行いました。
初めに時計の周りを緩衝ゴムで覆い耐久可能な厚さを調べました。その結果、ゴムの厚みはソフトボール大になってしまい、そこで初めて開発の困難さに気づいたのです。
試行錯誤を重ね、時計の心臓部(モジュール)をケースカバーやゴムガードリンクなどの部品で覆う「五段階衝撃吸収構造」を発案。
このアイデアが効果的に働き、腕時計サイズは劇的に縮小できましたが、大きな問題を抱えていました。
実際に落とすとモジュールの中の電子部品が必ず一つ壊れるのです。
割れやすい液晶画面を強くするとコイルが切れ、コイルを強化すると他の部品が壊れる……。改善を試みようとも全く歯が立たず、1年の歳月を費やし落下回数は200回を超えました。