見通せぬ米国の未来。分断が加速する大国を覆う「モヤモヤ感」の正体

 

左右対決で対策進まず全ての事態が深刻化

アメリカの「モヤモヤ感」の中には、環境問題というのはかなりを占めているように思われます。特にこの春は、異常気象が非常に極端になっており、冬の豪雪が溶けて大河ミシシッピの流域で広域的な洪水被害が起きているとか、豪雨や竜巻の被害も増えています。雨のない季節、西海岸では毎年のように山火事被害が拡大しています。その背景には、明らかに温暖化の問題があるわけです。

ですが、「そもそも異常気象の被害が激しい、中西部や西海岸の山岳地帯」というのは、アメリカ保守の牙城です。彼らは「大自然の猛威と戦うのが開拓者の使命であり、そのために神に選ばれた人間は技術を手にしているし、神は最大の恩恵として大地から石油の恵みを与えた」と信じています。そして「こんなに激しい自然の猛威は絶対に人為ではない」というのです。つまり、被害の激しい地域に限って「温暖化理論を信じない」ということになり、全国的な議論が発展しないのです。

同じことは銃規制の問題にも通じています。現在のアメリカは、毎週のように銃の乱射が起きており、先週末にはテキサス州のダラス近郊のショッピング・モールで銃撃があり、8名が死亡するという惨事となりました。犠牲者の中には、少なくとも2名の幼児、3名の韓国系アメリカ人が含まれているようです。乱射犯は射殺されていますが、精神疾患で陸軍を除隊になっていた人物のようです。

こうした事件が起こると、民主党と都市部の世論は「精神疾患を患っている人間がどうして強力な銃を購入できるのか」と激しく抗議しますが、テキサスなど中西部の風土の中では「病気の人間には強盗に襲われたら死ねというのか」という論理で、全くテコでも動きません。そんな中で、保守の側は「リベラルな政権が成立して、上下両院を取られたら銃が買えなくなり家族が守れない」という不安を抱く一方で、都市とリベラルは「銃が野放しで何の対策もできない」と不安を募らせるということになっています。

同じように、移民問題も左右対立の中で抜本的な対策ができないまま、事態だけが深刻化しています。

従来では考えられなかった停滞感に覆われるIT業界

経済に目を向けますと、この30年、アメリカ経済を大きく牽引してきたコンピュータ技術の発展が、ここへ来て踊り場に差し掛かっているようです。特に、フェイスブック(メタ)の経営の低迷、ツイッターの買収による迷走、ティクトックの問題など、従来では考えられなかった停滞感が業界を覆っています。

そんな中で、もしかすると、テックの世界を新たなレベルに引き上げるかもしれないと期待のかかる「メタバース」に関しては、メタにはこれ以上の大規模投資を行う余力はないようで、次の実用化ステップに進むかどうかについては、アップル社の決断に懸かっているようです。アップルがどう判断するのか、そしてゴーとなった場合に果たして成功できるのか、この業界にも不透明感は強くなっています。

経済ということでは、インフレが深刻な問題となっていました。ですが、ここへ来てやや鎮静化の傾向が見られます。例えば、鳥インフルの猛威のために、日本より先行して価格高騰していた「鶏卵」の場合は、一時期は1ダース12個入りが「6ドル(780円)」まで行っていました。ですが、最近ではディスカウントストアで「2ドル10セント(290円)」、牧場が経営している牛乳店では「1ドル94セント」と、ほぼインフレ前の水準まで戻りました。野菜や肉類も、一時の狂乱物価ではありません。

ただ、その他のジャンルに関しては、高止まりという感じになっていて、輸送費が重くのしかかっているジャンルの場合は、原油高が終わらないと無理でしょうし、外食やサービスなどの人件費は、恐らくもう戻らない可能性があります。

そんな中で、パウエル総裁率いる連銀(FRB)は、今回も0.25%の利上げをしたわけですが、この先はどうするのか、やはり不透明感が強くなっています。一部銀行の信用不安、そして不動産ローンの金利高騰による不動産価格の下落も始まる中、今後の米国経済については、一定の警戒感をもって見てゆく必要があると思います。

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