台湾有事切迫論の大ウソ。習近平が軍事侵攻を考えているはずもない証拠

 

フェイク情報に真っ先に飛びついた安倍・麻生

冷静に考えればデビッドソン発言の虚妄性は明らかで、

  1. 危機切迫を煽って軍事予算を獲得したい軍人
  2. 米軍産複合体に籠絡されている議会のタカ派国防族
  3. その同伴者である右派の米マスコミ
  4. 米国発の情報を無批判に受け入れる米国崇拝的な日本のマスコミ

が連なると“伝言ゲーム”的な増幅が起きて、日本国民にはフェイク情報のシャワーとなってのしかかってくるのである。

それに真っ先に飛びついたのは、故・安倍晋三元首相と麻生太郎副首相(当時)で、デビッドソン発言が報じられた数日後に2人で額を寄せて「これはいよいよ大変だ。台湾有事は必ず起こり、それは直ちに日本有事に波及するとの判断を情勢認識の基調に据えて、本気で防衛力の整備を図らなければならないぞ」と語り合ったと言われている。

それですっかり舞い上がったのが、佐藤正久=自民党外交部長で、『知らないと後悔する日本が侵攻される日』(幻冬舎新書、22年8月刊)の中で、

▼早ければ2027年というのが私の読み。デビッドソン司令官もそう言っている。

▼習近平が「国を強くしたね」と国民から認められるには、台湾の統一が一番。少なくとも離島の1つぐらいは占領しないと。

▼短期決戦に持ち込むには、私なら

  1. 北朝鮮に朝鮮半島で何らかの動きをさせ
  2. ロシアに極東やオホーツク海でアクションを起こさせ
  3. ロシアにヨーロッパ東部でもアクションを起こさせて、米日欧の戦力を分散させる

と述べている。「私の読み」と言うのは明らかな嘘で、デビッドソン発言が報じられたのをいいことに「私も前々からそう考えていた」と後出しジャンケンをしているに決まっている。そうでないと言うなら、「私の読み」の根拠をきちんと示さなければならない。また、中国人民は国が経済的に豊かになることを切望すればこそ軍事的に強くなることを特に望んでいない。習近平もそのことを先刻ご承知で、人々の間にまだまだ残る格差を解消し皆が安心して暮らすことができるようにするために命懸けで取り組んでいて、「離島の1つぐらいは占領しないと」国民の支持が得られないなどという稚拙なことは考えているはずがない。

さらに、中国が台湾侵攻に打って出る時には、北朝鮮とロシアにも一斉に軍事行動を起こさせるというが、中国に北やロシアにそんなことを命令できる権限はないし、要請したとしても各国はそれぞれの事情に従って国益を考慮して意思決定をするのであり、中国の旗振りで「旧共産陣営」が打って一丸、「第3次世界大戦」に突入するなどというのは、狂気じみた妄想に過ぎない。こんな、軍事・外交について幼稚園レベルの認識しか持たない似非軍人が自民党の外交政策の責任者に収まっているとはビックリ仰天である。

「台湾有事切迫論」を煽り立てるマスコミの意図的な歪曲

このような歪んだ「台湾有事切迫論」をさらに煽り立てるのはマスコミである。例えば、昨秋の党大会報告で習が「台湾統一について『武力行使を決して放棄しない。あらゆる選択肢を持ち続ける』と宣言し、台湾への関与を強める米バイデン政権と台湾の蔡英文政権を威嚇した」(読売10月17日付)などと、あたかも今回初めて武力行使を宣言したかのような、あるいは特別に武力行使を強調したかのような言い方をし、見出しにもそこを持ってくるなど扇動的な報道をする。そうすると世の評論家の類も簡単に引っかかって「習報告でいよいよ台湾侵攻の現実的な可能性は強まった」などと言い募るのである。

しかし、その習報告を自分で読み、出来うれば前回、前々回の大会報告の該当部分と比較すれば一目瞭然だと思うが、彼は平和的統一が最善だと繰り返し述べていて、その上で、最後の方で、「しかし、いざとなれば武力行使は辞さない」との趣旨を述べてはいるけれども、それはあくまで付け足しの、毛沢東時代から変わらない常套文句であり、しかもその趣旨はあくまで「外部勢力からの干渉とごく少数の『台湾独立』分裂勢力およびその分裂活動」に向けたものであって、「決して広範な台湾同胞に向けたものではない」と、断り書きまで挟んでいる。そうしたことを全て捨象して、習報告の中に「武力行使を放棄しない」という1行を見つけてそこだけに光を当て騒ぐのは、フェアでないどころか、意図的な歪曲と言われても仕方のない所業である。

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