台湾有事切迫論の大ウソ。習近平が軍事侵攻を考えているはずもない証拠

 

台湾有事介入で日米が犯すプーチンと同じ過ち

そもそも、中国の内戦はまだ正式には終結していない。だから中国が「いざとなれば武力行使は辞さない」という立場を維持するのは当たり前で、それは1955年5月の全人代で周恩来総理が「中国人民が台湾を解放する方法は2つある。すなわち戦争の方法と平和の方法である。中国人民は可能な条件のもとで、平和的方法で台湾の解放を勝ち取る」と述べたところまで遡る。

この当時は、まだ現実に武力衝突が頻発していて、1950年には中国軍が船山諸島と海南島を奪い、54年には大陳島と一江山島も占領(第1次台湾危機)。58年には金門・馬祖両島を巡り本格的な砲撃・空中戦が起き米国が仲裁に入った(第2次台湾危機)。さらに62~65年にかけては台湾側が「国光作戦」と称して舟艇で大陸に部隊を送り込んでゲリラ攻撃を繰り返したが、両軍が直接戦火を交えたのはこの頃まで。次に緊張が高まったのは、国民党ではあるが本省人で独立志向が強いと見られた李登輝が96年総統選で勝利する可能性が高まった際、中国が牽制のつもりで台湾沖にミサイルを撃ち込むという粗暴な振る舞いに出た時で、米第7艦隊の空母機動部隊2個が台湾海峡周辺に進出する一触即発の事態となった(第3次台湾危機)。

内戦が終わっていない以上、いつまた紛争が再燃してもおかしくはなく、その意味で「台湾有事」の潜在的可能性は今も存在している。が、中国側が「平和的統一ファースト」を事あるごとに宣言しているのはホンネで、昔も今も中国には何万何十万の人命を犠牲にしてでも全面戦争を仕掛けるゆとりなどあるはずがなく、そんなことは絶対にやりたくない。しかし、仮にも台湾側が「独立」を宣言すれば、それは中国の領土が欠損することになるので何が何でも阻止しなければならなくなる。頼むからそんなことをさせないでくれというのが、中国が常に「いざとなれば武力行使は辞さない」と言い続けていることの意味であり、そのことを台湾側も百も承知だから、「今がすでに事実上の独立状態なので、何もわざわざ『独立』を言い出して北京の武力介入を呼び込むことはない」と思い定めている。その暗黙の了解の上に両岸関係は危うく成り立っていて、その上でしかも軍事的・外交的・政治的なさまざまな駆け引きも際どく展開されるので、1つ間違えれば有事になりかねないのは事実だが、習近平が4選を達成したいからとか、人民解放軍の建軍100年記念だからとかいった素っ頓狂な理由で中国が戦争を始めるなどと思うのは馬鹿げている。

その上で、本当に「台湾有事」になったとしても、それはあくまで「1つの中国」の中での内戦であり、米国にせよ日本にせよ外国勢力が手を出せば「侵略」に当たる。ウクライナ戦争の本質は、ユダヤ系と生粋ウクライナ人ナショナリストが中心のキーウ政府と、ロシア系住民が多数を占めるが故に高度の自治を求めるドンバス地方との内戦であり、それにロシアが軍事介入したのは、いかに見るに見かねてのことだったにせよ、国際法的には明らかに「侵略」で、そのためプーチンは大変な苦境に嵌まり込んだ。もし米日が台湾有事に介入すればプーチンと同じ過ちを犯すことになるのである。

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