台湾有事切迫論の大ウソ。習近平が軍事侵攻を考えているはずもない証拠

 

世間知らずの軍人の妄想でしかない台湾有事切迫論

台湾有事が切迫しているかの言説が突如として噴き上がったのは、フィリップ・デビッドソン=前インド太平洋軍司令官が21年3月に米上院軍事委員会の公聴会で、中国の台湾軍事侵攻について「この10年以内、実際には今後6年の内にその脅威が現実のものとなると私は思う」と発言したのがきっかけである。

〔原文:Taiwan is clearly one of their ambitionsbefore that, and I think the threat is manifestduring this decade, in fact, in the next sixyears.〕

この発言は、「今後6年以内」と予測期限を明示したことが新鮮で、米日のメディアが大々的に報道して話題になった。しかし、その公聴会の記録を見ても、彼はなぜ「6年以内」なのかの理由を示しておらず、また居合わせた上院議員からもそこを確かめようとする質問は出ていない。その後、同発言の波紋が広がる中で記者団から度々問われて彼が言ったのは、「22年秋の党大会で3期目の続投を決める習近平総書記が、さらに4期目に繋ごうとするのが27年だ」ということだった。また、デビッドソン本人がそれを口にしたかどうか本誌は未確認だが、他の米軍幹部の言葉として「27年は中国人民解放軍創建100周年に当たる」という“節目感”も漏れ伝わっている。

ご冗談でしょう!と言うほかない。確かに慣例を破って3期目、さらに4期目まで計20年間もの長期政権を目指すという無理を重ねるよりも、上手に次代、次々世代の後継者を育てて席を譲り大長老として悠々と国の行末を見守ろうとする方が遥かに賢明な選択ではないかと私も思うけれども、そうかと言って、習4選が、中国と台湾の兵士のみならず市民が何万、何十万と犠牲になり、中国のみならず世界の経済に破滅的な打撃を与えるであろう「戦争」を敢行することなしには達成できない難関事と決めつける極端な判断が、一体どこから出てくるのか。全世界の最優秀の中国研究者を100人か1,000人集めてアンケートを取っても、この判断に賛成する者は皆無だと断言してもよく、つまりこれは軍事には明るいかもしれないが国際政治や中国事情は何も知らない世間知らずの軍人の妄想に過ぎない。

増してや、習が「人民解放軍100周年だから、一つこの辺で戦争を起こそうか」と思うかもしれないと想定するのは、ほとんど狂気の沙汰で、そんなことで戦争が起きた例は世界史上に皆無である。

絶対に起こらない27年の中国による台湾軍事侵攻

ペンタゴンに直結するシンクタンク=ランド研究所の上級防衛分析官であるデレク・グロスマンが、Nikkei Asia 22年11月16日付寄稿で「11月14日、バリ島でのG20首脳会議に先立って習近平主席と会談したバイデン大統領は、会談後『中国側には、台湾に侵攻しようといういかなる差し迫った企図(imminent attempt)もないと、私は思う』と述べた」と指摘している。

また彼は習の党大会報告の台湾に言及した個所について、

「多くの国際的メディアの報道とは反対に、先月の大会では習近平は台湾の問題では全くもって控えめで、激するところはなかった。習は、8月のペロシ米下院議長の訪台などを念頭に『外部勢力による目に余る挑発的な干渉』を非難したが、台湾当局そのものを非難することを避け、むしろ1つの中国の前提の下での政治的交渉の可能性への期待を残しておくよう心がけた」

「北京は少なくとも2024年1月の総統選で親中的な国民党が蔡英文の民進党に勝つかどうかをじっくり見極めようとするだろう」

と述べている。私の習報告の台湾関係部分への評価も同じだし、台湾の友人らも同意見で「蔡英文政権は不人気で行き詰まっており、ペロシ来訪などバイデン政権の対中国刺激作戦に乗って緊張感を高めることで人気回復しようとしたがダメ。24年の総統選挙ではほぼ確実に国民党が勝つ。国民党は絶対に『独立』などしないから、27年に中国の台湾侵攻など起こらない」と言っている。

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