プーチンを「クソ馬鹿野郎」と呼ぶロシア最強部隊トップの不可解な“撤退宣言”
バフムトから撤退したら国家反逆罪になる
もう一度時系列で見ます。
・5月5日、弾薬不足のプリコジンは、鬼の形相で、「ショイグ!ゲラシモフ!弾薬はどこだ???!?!?!?!」と叫んでいた
・5月9日、プーチンについて、「おじいさんはクソ馬鹿野郎」と罵倒
しかし…………。
・5月20日、プリゴジン、「バフムト完全制圧宣言」。プーチンも祝意
・5月25日、ワグネル、バフムトからの撤退開始
・6月1日、ワグネル、バフムトをロシア軍に引き渡す
5月9日時点でワグネルは弾薬不足で劣勢。プリゴジンは激怒していた。ところが5月20日には勝利宣言しています。動きをずっと追っていれば、「変だな」と思うでしょう。一体何が起こったのでしょうか?
もう少し細かく見ることで、真相がわかりそうです。
5月5日、「弾薬はどこだ!?!?!?!」と叫んだプリコジン。この時、彼は「弾薬が供給されなければ、撤退する!」と宣言したのです。5月7日、プリゴジンは、「必要な武器弾薬を約束された」と語り、戦闘継続を示唆。5月9日、彼は「届いた弾薬は要求量の10%だった。俺たちはだまされた!」と、また激怒。この時プリゴジンは、こんなこともいっています。
「陣地を離れたら、国家反逆罪になると明確に書かれていた」
つまり、「バフムトから撤退したら国家反逆罪になる」とロシア軍に脅されたと。
ここまでの流れを見てわかることは何でしょうか?
・ロシア軍は、ワグネルに武器弾薬を供給できない(@武器弾薬が不足しているのは、ワグネルだけでなく、ロシア軍全体)
・武器弾薬が足りないので、プリゴジンはバフムトから撤退したい
・しかし、撤退すると「国家反逆罪」になってしまう
・そこで、プリゴジンは20日、「バフムト完全制圧宣言」を出した同日、プーチンが祝意を伝える
・(手ごわいワグネルに撤退してほしい?)ゼレンスキーは21日、「バフムト陥落」を認める
共同5月21日。
<ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシア側が完全制圧を発表したウクライナ東部の激戦地バフムトが「管轄下にない」とし、事実上陥落したことを認めた。広島市でのバイデン米大統領との会談前に記者団に語った。>
※ ちなみに、ロシア軍がバフムトを「ほとんど制圧している」のは事実です
ワグネルは、正規軍ではなく「民間軍事会社」。プリゴジンは、プーチンに戦果を約束して、戦地に向かった。「約束」とは、「バフムトを陥落させること」です。プリゴジンは、「完全制圧宣言」したことで、「プーチンとの約束を完遂した」ことにできる。そして、「ミッションを完遂した」ということで、堂々と撤退を始めたのです。
その意味するところは、何でしょうか?
プリゴジンのワグネルは、(このまま何もなければ)撤退する。しかし、ウクライナ戦争は、終わっていません。ウクライナ軍の反転攻勢がはじまっている。ウクライナ軍ともっとも勇猛に戦ったワグネルは去り、ロシア軍は、ワグネルなしでウクライナ軍と対峙することになります。これは、ロシア軍にとって大きな痛手でしょう。
プリゴジンはどこへ?
ウクライナプーチンロシア北野幸伯北野幸伯『ロシア政治経済ジャーナル』
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