プーチンが展開するワグネルのトップを使った偽装工作
そしてそれを支えるのがロシア国民からの絶大な支持です。ロシア国民の大半は、まだプーチン大統領の統治と方針を支持しており、対ウクライナ戦争(対NATO戦争)についても、諸手を挙げて支持しているかどうかはわかりませんが、【ウクライナという媒体を使ってロシアを孤立させ、弱体化させようとしている】という、欧米メディアがプーチン大統領の“盲信”と呼ぶものを信用し、懸念を共有していると言われています。
事実、最近になって多発するロシア各地に対する攻撃は、誰による仕業かどうかは別として、ロシア国民の恐怖心を煽り、それがプーチン大統領の方針と世界と戦う姿を後押ししているという分析もあります。
もしそうだとしたら、国民の支持をベースに確実にこの戦争は長期化の様相を呈することとなるでしょう。
では、メディアを騒がせたワグネルの創始者で大富豪のプリコジン氏によるショイグ国防相やゲラシモフ統合参謀会議議長に対する罵倒はどうでしょうか?
これも言葉通りには取ることが出来ないと考えます。プリコジン氏はプーチン大統領に非常に忠実であり、プーチン大統領もプリコジン氏とワグネルに対して絶大の信頼を置いています。実際に、ロシアが非公式に親ロシア各国で行う軍事的な活動と工作のほとんどを任せているほどで、プリコジン氏とワグネルの行動に対して、無制限の支援をしていると言われています。
今回、プリコジン氏はバフムト攻略にあたって武器弾薬が来ないと激しい非難をしていますが、これは自らのスタッフに直接叱責する代わりに、プーチン大統領がプリコジン氏を使って発破をかけているという見方と、国内の分断を偽装するための情報戦をプリコジン氏に託しているとの見方が出来ます。
前者については、大統領就任以来、一貫しているプーチン大統領の人心掌握と制御のやり方を踏襲していると言えます。彼の意にそぐわない、または欲を出し始めた相手をこれまでに冷徹に切り捨ててきたことを側近に対してリマインドする役割を負っていると言えますが、ゲラシモフ統合参謀本部議長もショイグ国防相もプーチン大統領の最側近の一人でプーチン大統領を裏切ることは考えづらいため、プリコジン氏が彼らを実際に自分よりも下に見ている以外は、この分析内容は考えづらいかと思います。
後者については、「ロシアは分裂しており、すでに統制が取れておらず、内部崩壊は時間の問題」という偽装工作です。
バフムトを一刻も早く解放することでワグネルの実力を示したいプリコジン氏と、戦争の長期化で欧米を疲弊させることを狙うプーチン大統領との間で思惑のずれがあったのではないかという見方はありますが、欧米とウクライナを消耗戦に引きずり込み、欧米の国内とウクライナ国内で厭戦機運を拡大し、分裂を引き起こそうとしている思惑は合致しているようです。
ロシア国内での分裂と消耗、士気の低下を演出して「あと少しでロシアは崩壊する」という幻想を強め、欧米諸国本国からどんどん武器を引きはがしていく作戦に出ているように見えます。
ロシアの正規軍は大きな被害を受け、強靭なワグネルも2万人超の死者を出しているのは事実ですが、どちらも虎の子を隠しており、敗戦にまっしぐらどころか、逃げたり弱ったりするフリをしつつ、ウクライナの力を削いでいく戦略を徹底しています。
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