「戦争ができる国」に突き進むも穴だらけの議論
第2に、そうなっても今さら後に引けない岸田は余計に意地になって、安倍追随路線の本筋である大軍拡の道に突き進もうとする。折しも米国のバイデン政権は中国への対決姿勢を強めていて、21年3月には現役を退いたばかりのデービッドソン前米インド太平洋軍司令官が議会で「今後6年のうちに中国の台湾への軍事侵攻がありうる」と証言して大きな話題となり、それを受けて安倍が麻生副首相(当時)と語らって「台湾有事は日本有事」という状況認識を基に防衛力の増強を図る方向を打ち出していた。
それを受けて岸田は、22年12月、「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定して「敵基地攻撃可能」なミサイル能力の取得を明記。具体的には米レイセオン社製の巡航ミサイル「トマホーク」500発の23年度中の一括購入(2,100億円)と、三菱重工業製の「12式地対艦ミサイル能力向上型」(射程200kmを900~1,500kmの巡航ミサイルに改良)を開発し26年度から1,000発配備(1,300億円?)とを想定し、それらを中心に23年度から5年間の防衛費総額を43兆円、22年度までの5年間に比べ1.6倍にまで増やすことを閣議決定した。
岸田にしてみればこれは、安倍の15年安保法制による集団的自衛権の条件付き解禁に次ぐ――というよりもそれを大きく上回る――「戦争ができる国」へ向かってのタブー破りだと言って胸を張りたいところだろう。しかしこれは、ボコボコの穴だらけの議論で、
(a)相手がミサイルを発射する以前でも「準備着手」を察知した段階でその基地を攻撃することができるというが、それが国際法上で禁止されている先制攻撃ではないのか。また憲法上禁止されている他国への侵略に当たらないのか。
(b)そもそも準備段階にせよ発射直後にせよ、それを察知する探知能力を保有していないので、米国の偵察衛星やレーダーシステムに頼るしかないが、そんなことで一国の存亡が懸った一瞬の判断を誤らないで済むのか。
(c)さらに、敵の対日攻撃は地上発射のミサイルによるとは決まっておらず、戦闘機・爆撃機やドローンの侵入、電子撹乱戦、艦船による射撃、ゲリラ部隊の上陸・破壊工作などいくつもの作戦を統合して仕掛けられると考えるのが常識だが、なぜミサイルによる反撃能力だけが取り上げられているのか。
(d)以上が全てクリアされ、ミサイルだけで対処することにしたとしても、巡航ミサイルは基本的に飛行機で、弾道ミサイルとは違って速度が亜音速の遅さなので全て撃ち落とされてしまう可能性が大きい。
(e)従って、トマホークも12式も軍需会社を大儲けさせるだけで宝の持ち腐れとなる公算が極めて大きい。
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