天下の愚策。都会人の“罪の意識”を利用した「ふるさと納税」が日本を滅ぼす

 

未だ政策を左右する「都会人の愚かな罪の意識」

もう一度申し上げますが、

「産業の地方への拡散によって、都市と地方の経済格差を是正する」

この考え方は全く間違っていません。と言いますか、先見の明のある、そして日本という国が生き延びていくために最低限必要な原則だと思います。ですが、その大事な原則が、都市の人々による全くの勘違いによる「罪の意識」によって潰されたのです。

では、この勘違いによる「罪の意識」によって国の政策が歪められるというのは、70年代の日本人だけが「やっちまった」ミスなのかというと、問題はそうではないということです。

21世紀に入って四半世紀が過ぎようという現在でも、この「都会人の愚かな罪の意識」というのは健在であり、それが政策を左右しています。と言いますか、70年代より悪質なことに、この「都会人の罪の意識」をそのまま政策として取り入れたシステムが稼働しているのです。

他でもない「ふるさと納税」です。

自分は都会に住んでいて都会に地方税を納税しているが、自分の「ふるさと」が衰退してゆくのには「心を痛めている」ので、何とか「地方の役に立ちたい」、これが「ふるさと納税」が「付け込んでいる」都会人の精神状態です。つまり70年代に改造論を潰した際の意識と、全く同質でありながら、より明確な感情としての「自分は地方に役立ちたいのに、都会に住んでいて申し訳ない」という「罪の意識」、そのものをターゲットにした政策以外の何物でもありません。

どうしてこの「ふるさと納税」がいけないのかというと、理由はいくらでも挙げることができます。

1)地方税制を歪める。経済規模に応じて地方政府の行政サービスは必要になるのに、都市の自治体に入るべき金が地方に流れてしまう。特に、東京は今後、引退世代の単身家庭が激増するので金を貯め込んでおく必要があるのに、コロナで知事がバラマキを行った結果、財政規律はユルユルになっており、「ふるさと納税」など一刻も早く止めないと、近未来に破綻自治体になってしまう。

2)正規の税収でない「お土産物を倍の値段で売った」上がりの半額を、地方の自治体は手にするが、それで地方経済が復活するわけでも、地方の消滅可能性都市が延命するわけでもない。ゾンビはゾンビなのに、かえって整理統合を先送りするだけ。

3)仮に大都市は「ふるさと納税」で税収が流出しても「やって行ける」のであれば、リストラして「小さな政府」にすることで、税率を下げるべき。とにかく税制と、歳出のコントロールということがセットで政策論争を経て、実施されるべきスキームが、メチャクチャになっている。

4)例えば子どもが2人とか3人などいて、教育をはじめとした地域のサービスを受けているとか、高齢世帯で地域の福祉に頼っている場合でも「ふるさと納税」で、その地域の納税を部分的に回避するというのは、全くのモラルハザード。

他にもあると思いますが、とにかくロクな政策ではありません。一刻も早く止めるべきなのですが、驚いたことに菅義偉前総理は、この8月19日に長野市で講演し、自分が総務大臣の時代に提唱した「ふるさと納税」の規模について、「総額2兆円という目標は必要だ。自然にそうなっていくことが望ましい」と述べたそうです。

報道によれば、ふるさと納税制度に基づく2022年度の寄付総額は9,654億円だったそうですから、2兆円を目指すというのは、今から更に倍増させるということです。これはもう異常としか言いようがありません。

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