イスラエルの「暗殺予告」に仲介国が激怒。終りが見えぬガザ紛争

 

ついにイスラエルを牽制しだしたアメリカ政府

ハマスが捕えている人質はまだ140名ほどいると言われていますが、まだすべての人質の解放がなされていない状況でのイスラエルのガザ全域を対象としたハマス掃討作戦の再開と拡大は、残された人質の生命の保証がイスラエルによってなされないことを意味します。

それに対し、ネタニエフ首相は「ハマス壊滅という目的達成のためには、人質の犠牲は致し方ない」と発言し、イスラエル国内の非難が高まっており、一部からは「ハマスは憎いが、私たちは間違ったリーダーを間違ったときに選んでしまった」という声も高まってきています。

また国際社会からは、ガザにおける民間人の犠牲を顧みないイスラエルの軍事行動に対して非難が高まっており、ついにはアメリカ政府もイスラエル政府に牽制しだしています。

オースティン国防長官は、ハマスによる攻撃と蛮行を非難しつつも、「イスラエルが民間人の犠牲を顧みずに今のような攻撃を続け、病院や学校という守られるべき施設を構わずに破壊し尽くす行為は、軍事作戦上は誤った戦略と言わざるを得ず、国際人道法の見地からも常軌を逸したものと考える」と、これまででは考えられなかったトーンで警告を発し、アメリカ政府の懸念を表現しています。

来年秋の大統領選挙に向けた国内政治アジェンダ上、イスラエル切りはできないのがバイデン政権の民主党と、返り咲きを狙う共和党陣営の現実ですので、何らかの形でアメリカ政府は、ホワイトハウスも議会も、コミットせざるを得ないのでしょうが、コミットの度合いと内容に変化が生じることは否めないと考えます。

人権の擁護を最重要課題に掲げる欧州各国とEUは、以前からイスラエルによる過剰防衛と行き過ぎた軍事行動、そして民間ターゲットを無差別に攻撃するイスラエル軍の姿勢と距離を置き、非難する判断をしているため、欧米諸国という大事な後ろ盾をイスラエルは失いつつあります。

特に最近になって明らかになった犠牲者の内訳と割合(1人のハマス構成員を殺害するために2人の民間人の命が奪われているというものですが、恐らくこの1対2の割合は過小評価されているもので、実際には1対10かもっと高いと言われています)が、欧州各国を驚愕させており、一時戦闘停止が終わった後は、一気にイスラエル非難を始めています。

この国際社会における孤立が、今後、国内でのブレーキが掛けられない限りは、さらにイスラエルを過激な行動に駆り立て、終わりが見えない、周辺国や反イスラエル過激派組織を巻き込んだ戦いに突入する方向に進みかねない状況になります。

フランスのマクロン大統領は、ネタニエフ首相が掲げた“ハマスの壊滅”を本気で目指す場合、この戦争は10年以上継続されることになると警告していますが、ネタニエフ首相とその周辺は、イスラエルとの交渉に当たるハマスの政治部門の幹部(カタール、レバノンに在住)の暗殺も公言し始め、それがハマスの政治部門はもちろんながら、今回、人質の解放にあたり仲介役を務めたカタール政府とエジプト政府を激怒させ、紛争が今後拡大した場合には、一気に地域に広がり、戦闘がエスカレーション傾向に入ることを示唆しているように思われます。

現在、気候変動COP28をホストしているUAEや、サウジアラビア王国は、何とかCOP28が終わるまでは静観の姿勢を保つようですが、その後はどうなるかわからないという見方が強まってきています。

恐らく年内の暴発はないと思われますが、イスラエルとの関係改善が生み出す経済的なベネフィットを放棄してでも、アラブの連帯を示すために年明けにイスラエル包囲網を固めるのではないかと思われます。

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