ガザでの凄惨な戦いの炎が周辺国に飛び火する可能性も
ダボス会議に参加し、イスラエルとハマスの間の仲介を行っているカタールのムハンマド首相兼外務大臣が言うように「イスラエルが2国家共存に取り組まない限り解決は望めない。今、国際社会は人質交換のための戦闘休止を議論の中心に据えているが、それでは根本的な問題は解決せず、また同じようなことが起きて、結果、パレスチナの地で大量殺戮が行われることになるだろう。国際社会はイスラエルとパレスチナの2国家が共存するというより大きく根本的な問題を無視してはならない」というのが、“解決”の鍵だと考えます。
「じゃあ、そうすればいいじゃないか」と言われるかもしれませんが、それが容易でないことは、これまでの複雑に絡み合ったイスラエルとパレスチナの間での交渉の進捗の遅さと何度も破られる約束を見れば分かるかと思います。
そして今回はメンツを完全につぶされたネタニエフ首相の政治的な意図も絡んでおり、純粋な自衛権の発動に留まらず、これまで彼の中で溜まっていたハマスやパレスチナ自治政府への不信感と、これを機にイスラエル周辺地域の安全保障・治安環境をリセットしようという意図が見え隠れしているのが気になります。
これまでイラン革命防衛隊に支援されたヒズボラやイエメンのフーシー派がイスラエルに攻撃を仕掛けていますが、それらはイスラエルへの示威行為に留まり、非常に綿密に計算された攻撃であると見ていますが、もしネタニエフ首相が自国の抑止力を再構築するために隣国のヒズボラを追い込むことを選び、レバノンやシリアへの攻撃を行うことを選択したら(自身の政治生命の延命と復権のたに)、ガザでの凄惨な戦いの炎はレバノンやシリアに飛び火することもあり得ます。
しかし、誰もパレスチナ自治区のガザを越えてこのイスラエルとハマスの紛争が拡大することを望むプレイヤーは(ハマスを除けば)存在せず、それはイスラエルの後ろ盾であるアメリカ政府も、ハマスを称え、ヒズボラやフーシー派を支援するイラン政府も、公式・非公式に紛争の拡大を望まないことを確認済みです。
サウジアラビア王国やヨルダン、UAE、カタール、エジプトなどの市民は「アラブ同胞の連帯」を掲げ、それぞれの政府に積極的にパレスチナ側につくように要請していますが、政府はすでにこれまでに進められてきたイスラエルとの国交正常化が提供する経済的な利益と最先端技術へのアクセス(特に海水の淡水化技術)といった実利の確保が自国経済の命運を握ることから、国民の手前、proパレスチナの口先での介入は行っても、戦争が収まった後のイスラエルとの協調に重点を置いて、戦闘からは距離を置いているため、イスラエルからの直接的な攻撃が、仮に誤爆であっても、自国に“継続的に”及ばない限りは、結局何もしないことを選択するものと、これまでいろいろな利害関係者や調停グループの専門家などと話ししてみて、そう私は理解しました。
ネタニエフ首相とその周辺は、もしかしたらよからぬ別の意図があって戦闘を長期化させているかもしれませんが、ガザでの紛争が継続し、長期化しても誰も得することはなく、逆に国際的な安全保障環境と体制の一層の不安定化を進めてしまうだけですので、国際社会はかなり強い決意をもってガザでの戦闘を止めさせる協調行動を取る必要があります。
そして停戦・戦闘停止が成立した場合、もちろん人質の一刻も早い解放を実現することは当たり前ですが、これまでに何度も議論され、架空の合意ができては破棄されてきた“2国家解決”(オリジナルは1967年の第3次中東戦争後の占領地からのイスラエル軍の撤退)を見直すことも必須ではないかと考えます。
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