そう言えば、ドルの覇権などというものも、だんだん怪しくなってきましたね。思い起こせば、ニクソンの「ドルショック(1971年)」で金本位制が崩れ、それに代わって、「ペトロダラー(petrodollar:オイルマネー)」の時代になりました。ニクソンの参謀キッシンジャー博士が、「石油の代金は必ずドルで払う」というルールを湾岸諸国と取りまとめたことで、ドルの価値を石油が担保するようになったのです。金本位制に代わる「石油本位制」です。
これで半世紀ちょっとやって来たのですから、大したものです。ところが、ウクライナ戦争を巡って、ロシアや中国、グローバルサウス、とりわけ湾岸諸国がアメリカを見限り、各国の通貨で石油の取り引きをするようになりました。サウジアラビアやUAEの離反が決定的でした。ペトロダラーの崩壊が始まったのです。
今や、ドルの覇権を支えるのは、アメリカの軍事力と経済力だけになってしまいました。このままでは、G7やNATO諸国を除き、地球上のほとんどの国々は次第にドルを使わなくなって行きます。ドルの「基軸通貨」としての地位が揺らぎ始めたのです。中共はどんどん米国債を手放していますから、ドルの価値を支える「チキンレース」に残っているのは日本だけになってしまいました。
こうなっては最早手遅れ。日本も、今更、日米運命共同体から抜けることなどできるはずもありません。岸田首相も日銀も、カタストロフが迫っていることは知りつつも、ドルを支えるためにFRBに協力するしかありません。当座、ドル高円安状況を一秒でも長く持たせて時間稼ぎをするしかないというわけです。
そして、国際金融資本がドルに代わる新たな「国際決済通貨(基軸通貨)」へと切り替えを行なう時、あるいは、米国がこれまでの旧ドルに代わって金本位制の「新ドル」体制に切り替える時、何が起こるかは、およそ見当がつこうというものです。歴史は繰り返す。つまり、明治新政府が「改暦」を断行した時と同じようなことが起きるのです。おそらくそれは、グローバルなレベルでの「踏み倒し」です。
私たちは、銀行預金が凍結されたり、手持ちの紙幣が紙屑同然になることを覚悟しておくべきなのかもしれません。もちろん、これは最悪のシナリオで、もう少しソフトな着地になるよう祈ってはおりますが…。
世の中では、アメリカの衰退ばかりが論じられておりますが、実のところ私は、アメリカやその背後に蠢く国際金融資本家たちの「しぶとさ」を信じております。つまり、そう簡単に、彼らばかりがやられっ放しのまま「多極化」の新時代がやって来るなんて思ってはいないのです。
それどころか、「アメリカ帝国主義」はまだまだこれからで、ようやく壮年期にさしかかったところではないかとさえ感じている次第です。おそらく、アメリカの支配者たちは、多少血を流してでも、思い切った「新ドル(新基軸通貨)」への切り替えを断行するのではないでしょうか。
(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』より一部抜粋)
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