「感じて予想」しなくなる不安。元お天気お姉さんが心配する、AIとスパコンに頼りすぎる天気予報が見逃してしまうこと

 

予測システムが優秀になればなるほど見逃されかねない「異常な天気」

ひとつだけ心配なのは「人」です。

私は地方気象台で鉛筆片手に天気図をプロットして予報していた“気象のプロ“から、“技”のいろはを学んできました。それだけにアナログが消えていくことに寂しい気持ちがぬぐえませんし、「気象のプロがいなくなってしまうのでは?」などと老婆心ながら心配してしまうのです。

そもそもどんなに優秀で精度の高いシステムが構築・運用されても、気象予測は100%にはなりません。いわゆる「バタフライ効果」です。

「ブラジルでのチョウの羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こす」――。

これは1972年に米国のマサチューセッツ工科大学の気象学者 ローレンツが、講演会で述べた有名な言葉ですが、気象現象にはわずかな初期値の違いが大きな違いに成長していくカオスの性質が存在します。どんなに優秀なスパコンが生まれようとも、どんなに多方面から初期値を正確に捉える手法や技術が進化しようとも天気予想から「はずれ」がなくなることは決してありません。

しかも、コンピューターは平均的な精度を上げるのは得意ですが、異常な天気を当てるのは苦手です。その“穴“を埋めてきたのが「人」の経験値と勘、暗黙知です。

お天気ねーさんだった頃、海女さんや農家の人たちを取材した際、「絶対に敵わない」と何度も思いました。

空の色、風、雲、気温、湿など、五感をフル稼働して「明日は雨になるなぁ」と予想したり。農事歴を重視したお米作りで美味しいお米を生産したり。

真似しようのない天気予報スキルを、お天気と共に生きる職業の人たちは習得していたのです。

お天気って、流れなんですよね。そう「流れている」わけです。地球をめぐる大気の流れが基本にある。科学では解明が難しい、リズムのようなものも存在します。それらはすべて、毎日、空を見上げ、風を感じ、生活と共に天気があってこそわかる代物です。

なので予測システムが優秀になればなるほど、外で空を見上げるのではなくパソコンの画面ばかり見る人が増え、「感じて予想する」機会がなくなり結果的に「異常な天気」が見逃されるようになってしまうのでは?心配です。

こんなご時世だからこそ、空を見上げ、自然に生かされてるという感情が天気予報にも重要になるように思えてなりません。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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