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京大教授が嘆く「松本人志を擁護する人々」の浅はかさ。「松ちゃんがんばれ!」が黒歴史にしかならぬ理由

自身の性加害疑惑をめぐり、松本人志が週刊文春発行元の文藝春秋に5億5千万円の賠償を求めた名誉毀損裁判。松本側は第1回口頭弁論で、被害者女性の実名・LINEアカウントなど個人情報を求めましたが、これは“大悪手”というのが専門家の大方の見方です。出版社側には取材源の秘匿が認められ、記事に真実相当性があれば損害賠償等も免責に。今回、訴訟の立証責任はあくまで原告の松本にあり、“常識外れの嫌がらせ”を続けても訴えを棄却されてしまうだけ――というのがその理由。ただ、そんな“常識”を理解できない人々も少なくないようで、本気なのか工作なのか松本人志のXには「松ちゃんがんばれ!」系のリプライが多数。これに「日本社会の深刻な下劣化」を感じるとするのは、メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』の著者で、京都大学大学院教授の藤井聡さんです。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:松本人志氏のツイートに対して「松本擁護コメント」多数、文春批判ラップに「絶賛コメント」…という状況が示す日本社会の深刻な下劣化と闇

(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2024年3月31日配信分の抜粋です)

よく考えもせず「全力で擁護」して大丈夫なのか

もしも自分の仲のいい大好きな兄が、レイプしたと週刊誌に書かれ、世間からバッシングを受け始めたとしましょう。

で、そんな週刊誌記事に対して、本人は「やってない」という声明を出しているものの、週刊誌には毎週、レイプについての詳しい情報が掲載され、週刊誌と本人の言い分が食い違っていたとしたらどうするでしょうか?

僕ならば、まず、本人が言っていることが真実なのか、週刊誌が言っていることが真実なのかを明らかにするために、本人に問い詰める事も含めて、可能な限りの情報を集める努力を重ねることと思います。

「そんな事をするはずがない」「その報道が嘘であってほしい」「その報道が真実ならなんてつらい話なのだろう…」などと強く思ったとしても、だからといって(真実についての確信が無い限り)、「全力で弁護」するということは無かろうと思います。

もしもそうやって弁護してしまえば、レイプ被害者に対して「お前は嘘をついてるんだ」と宣言することに等しいことになってしまいます。そんな宣言をしておいて「ホントは兄がレイプしてたんだ」っていうのが真実だって事が後で分かったら「ごめんごめん、あれ、俺が間違ってたわぁ~」では絶対に済まされません。

レイプの被害者に「おめぇ、嘘ついてんだろ?」っていうのは、卑劣な最低の行為だからです。

だから僕は、(兄の事をどれだけ愛していても、信じたいと思っていても)兄がレイプをやっていないと「確信」できない限り、どう考えても、兄を徹底弁護するなんてことは、絶対にできないのです。

無意識の「セカンドレイプ」

以上を整理しますと、僕がなぜ「兄を全力で弁護」できないかというと、その理由は次のようになります。」

(1)僕は、兄がレイプをしていないと断定できない。

(2)一方で僕が「兄はレイプなんてしてないんだ!」と徹底弁護できるのは、「兄がレイプをやっていない」と断定できると、僕が思った場合に限られる。

(3)だから(兄がレイプをしていないと僕は断定できない以上)、僕は兄を徹底弁護できない。

こう考えると、極めて当然の話ですよね。ただし、この件がレイプである、ということを踏まえると、さらに重要な次のポイントを挙げることもできます。

(4)しかも、万一、兄が実際にレイプをやっていたとして、そしてそれにも関わらず僕が「兄を徹底弁護」していたとすれば、その徹底弁護が被害者女性に対する被害を拡大する事になる(いわゆる、セカンドレイプ、と呼ばれるもの)。

その被害拡大リスクを回避するためにも、レイプ事件については特に『「兄はレイプなんてしてないんだ!」と徹底弁護できるのは、「兄がレイプをやっていない」と断定できると思った場合に限られる』という態度をより強固に持つ必要がある。

常識、良識、理性、法的精神の欠如

ということで一定の倫理性を持つ人ならば、「兄はやっていない」と確信が持てない限りにおいて、兄を徹底弁護する言葉を、口にすることは、絶対回避する事になります。

それは「レイプされた被害者を、お前はレイプされてないのに、レイプされたって嘘ついてんだろ!!」という酷い人非人(クズ)な振る舞いをしてしまうことを回避するため、です。

だから兄を愛する僕は、「兄はやったかもしれない!」とまでは言いませんが、「兄は絶対やってません!あの女は嘘ついてるんです!」とは口が裂けてもいわないのです。

…っていうか、普通の「常識」(common sense)や「良識」や「理性」(reason)、あるいは最低限の「法的精神」(regal mind)があれば、上記の当方がイメージする判断をされるのではないかと思います。

…が、恐るべき事にこの国には、こういう常識も良識も何も無い、酷い人非人(つまりクズ)に自分自身がなってしまうリスクを厭わず、レイプ被害の告発者を「お前は嘘つきだ!」という趣旨の主張を繰り返すような種類の人達が驚く程多数いるようなのです(むろん、嘘つきであることを理性的に確信しているのなら、それはそれでいいのですが…)。

松本人志問題」についてです。

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「松ちゃんがんばれ!」が示す日本人の下劣化

先日松本人志が、A子さんB子さんが松本氏による性加害を訴える記事を掲載した文春に対する名誉毀損裁判の第一回目が行われました。そして、その機会にあわせて松本氏は、次のようなツイートを出したのです。

「人を笑わせることを志してきました。たくさんの人が自分の事で笑えなくなり、何ひとつ罪の無い後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです。世間に真実が伝わり、一日も早く、お笑いがしたいです。」

ツッコミどころ満載のツイートですし、(これまでの松本氏の言動を踏まえれば)何が言いたいのか趣旨は今ひとつ判然としない内容ですが、それはさておき、兎に角松本氏は自分は性加害などしていない、という事を主張しているかのような印象を与える内容になっています。

松本氏の発言の是非それ自身はさておくとしても、驚いたのはこれに対して、松本氏の「自分は無実だ」という主張が正しいという前提で「頑張れ、松ちゃん!!」っていう趣旨のコメントが何十万件も付けられている、という点。

「早く笑いを届けに来てくださいっ、待ってますっ」

「一刻も早い復帰を願っております!」

「松ちゃんがんばれ!!」

松本氏のXには、こうしたコメントで埋め尽くされているのです。

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“松本人志化”しつつある日本の未来を憂う

僕はこれを目にした時、日本にはこういう方がホントに増えてしまったのだなと、大変残念な気持ちになりました。

それにさらに残念なのが、松本氏の後輩のお笑い芸人のとろサーモンの久保田氏が、文春をディスるラップを出し、それに対して「勇気がある配信だ!」という絶賛の声が多数寄せられている、という点。

しかも松本氏は、このラップのYoutube動画をXにてリツイートしているのです。

冒頭の当方の論理を読んで頂いた皆様方なら、彼らの振るまいが如何に問題のある振る舞いなのかをおわかりいただけるものと思います。

要するに彼らの多くは、「文春を批判し、松本氏を擁護するということが、性加害被害を訴えている女性が嘘をついていると断定する事になっている」にも関わらず、それについて何ら配慮が及んでいないわけです。

(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論』2024年3月31号の抜粋です。続きはバックナンバーでご覧ください。また、この機会に初月無料のお試し購読もどうぞ)

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  • 松本人志氏のツイートに対して「松本擁護コメント」多数、とろサーモン久保田氏の文春批判ラップに「絶賛コメント」…という状況が示す日本社会の深刻な下劣化と闇(3/31)
  • 総括・アベノミクス(その3) ~「腐敗」を糺すために、「不信」の目を公正に徹底すべし~(3/30)
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  • 総括・アベノミクス(その1) ~「醜いアヒルの子」として生まれた積極財政金融論~(3/28)
  • 「日銀」が仕掛けた日本経済に対する「破壊工作」:マイナス金利は本格利上げ前の「緩衝地帯」。我々は今、その緩衝地帯が日銀によって占領された状況にある。(3/24)
  • 「マイナス金利解除」は、様々なプロセスを経て国民を激しく「貧困化」させる ~「利上げ期待」がもたらす消費・投資・インフラ輸出の低迷と「財政規律」強化~(3/23)
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  • 【岸田総裁の政倫審出席はむしろ有害】岸田氏の弁明は予算委員会と全く同じ。唯一の相違点「パーティやらない」宣言は奇しくも「岸田文雄に倫理ナシ」の証となった。(3/3)
  • 「一日、ビールロング缶一本飲むのは止めましょう」という厚労省の飲酒ガイドラインは「馬鹿丸出し」である。かしこく酒と付き合う「大人の常識」をこそ鍛え続けるべし。(3/2)

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image by: 松本人志 公式X(旧ツイッター)

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京都大学大学院・工学研究科・都市社会工学専攻教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年生。京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。2012年から2018年まで内閣官房参与。専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論.文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。著書「プライマリーバランス亡国論」「国土学」「凡庸という悪魔」「大衆社会の処方箋」等多数。テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。2018年より表現者クライテリオン編集長。

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