経産省の問題意識では「日本が海外に技術を持ち逃げされる」だけ
もう一つの「海外現地採用が60%を超える時代の経営」ですが、これも問題の建て方がおかしいのです。
日本式経営は現場力が大事で、現場にノウハウがある、一方で多国籍経営にすると縦割り組織が災いして非効率になる、そこを「横串を刺して」改善したいというのが、経産省のストーリーのようです。
ですが、ノウハウを現場におろした場合、終身雇用でない海外の場合は、ノウハウを持ち逃げされて終わりです。また、現場に専門性があり経営は素人の場合はナメられて終わりです。
ですから、国際的な労働市場が成立している中で、とにかく優秀な人材を獲得しながら、ノウハウはしっかり守るということが大事です。また、これも国際基準に即してトップダウンで明確な判断をおろして、明確な統制を効かせて、どんどん前へ向かって走るしかありません。
そのためには、実践的な英語でのコミュニケーション力と、交渉力、契約概念の管理能力のある「まともな」経営者を配置するしかないのです。
ちなみに、大きなスライドの17ページ以下にある「日本にしかない経営企画部門の無駄」という部分、これは経産省若手のヒットです。この部分は日本の経済史としても面白く書けています。
ですが、冷静に考えてみると、経産省がこのような「経営改善を提言するためのディスカッション」をやっていること自体が、国家レベルでの「経営企画」であるとしたら、それもムダであるわけで、若手官僚の人々が、その辺りのパラドックスに気づいているのかはすこし心配な部分でもあります。
経営者を取り替えるか、企業を潰すしかないのが現実
次に(2)の製造DXが進まない件ですが、まあ書いてあることは間違ってはいません。個々のオペレーションやビジネスに関するDXが9割であるのに対し、全社的な影響を及ぼす経営に関するDXは1割しかないというのは、たしかに問題です。また、「デジタル敗戦」という認識も正直でいいでしょう。
ですが、「技術で勝って、ビジネスで負ける」という表現は、2010年はともかく現在において、もうそんな段階は過ぎたようにも思います。
この問題に関しては、スライドの内容はかなり抽象的で地に足がついておらず、スベっているとしか言いようがありません。
英語が駆使できず、DXの真髄、つまり標準化と省力化、高速化という概念を理解しない経営者は、どんなに説教しても分からないので、取り替えるか、その企業に滅んでもらうしかないという冷厳な事実から逃げても無理ということです。









