「競争力維持に政府支援が不可欠」という思考の何が怖いか?
怖いのが(3)の「Hard-to-abate産業におけるGXの方向性」という部分です。ここでは、どうしても排出ガスを出してしまう製造業分野について、どのようにGXを実現するのかが延々と書いてあります。
その結論としては、競争力維持のためには政府が支援するしかないという悲劇的なものです。これは本当に怖いと思います。
何が怖いのかというと、ここで述べられている懸念の相当な部分は、現在稼働もしくは冷温停止中で、安全基準にパスしている原子力を含めた、あるべき「エネルギーミックス」で乗り切れるからです。ですが、経産省としては、どう考えても世論は説得できないと諦めてしまっているようです。
そうなれば、電力の安定化は非常に難しいし、安定供給のためにはどうしても化石燃料依存が継続するわけです。その場合は、GXに逆行する中で、企業がGX時代の国際競争力を維持するには公費の支援が必要というわけです。
この問題は本当に怖いです。霞が関も、そして経団連も、この問題に関してはほとんどバンザイで降参という構えだからです。
そして、この国では電力の安定供給もGXも無理だということになれば、さらに多くの製造業が空洞化するに違いありません。岸田政権は、GDPに占める外国人観光客の消費を現在の1%から3倍にすると言っていますが、そうでもしないと経済は支えられないということになるのかもしれません。
経済安全保障・機密保護の議論に欠けている視点
もっと心配なのが、(4)「経済安全保障を巡る国際情勢と政策の方向性」という部分です。ここでは、自民党の保守派やネトウヨのプレッシャーで「企業秘密、特に防衛関連秘密」は厳格に守れという話に一斉に引きずられています。
この点に関しては、実務的にはしっかりしないと経済成長もできなくなるので、実行はマストだと思います。
ですが、戦略や実務知識のないままに「産業スパイが怖い」とか「民生技術を盗まれて防衛転用されたら怖い」などと恐怖の概念から自分の首を締めてはダメです。セキュリティ・クリアランスというのは実は広い概念です。
つまり「機密に触れていい人」を制限するだけではないですし、「機密は何か」を決めて囲い込むだけではありません。これに加えて「この技術分野はセキュリティを解除」して民間の生活向上や経済成長に寄与して良いという「解除」の思想も必要なのです。
さらに、民間利用したら大いに生活の向上と経済成長に寄与できるが、軍事機密に囲まれると社会貢献も経済貢献も限定されてしまう、そんなテクノロジーがあったのなら、大所高所から判断が必要です。
そうした観点が欠落したまま、機密の囲い込みをやる話が暴走しては、経済をさらに痛めつける危険性があります。
今回の大きなスライドの方では、この点への懸念は多少見え隠れしていますが、キチンとした原則論には達していません。この点に関しては、経産省の立場を擁護しつつ守っていく必要を感じます。









