米議会がウクライナ支援の緊急予算案を可決した背景
振り返ってみましょう。2022年2月24日、プーチンはウクライナ侵攻命令を出しました。そして、ロシア軍は、ウクライナの首都キーウに向けて進軍しました。これは、プーチンが、首都キーウ占領、ゼレンスキー政権打倒、ウクライナ全土支配を目指していたことの証拠です。
もし、プーチンの目標が、「迫害されているルガンスク、ドネツクのロシア系住民を守ること」であれば、ロシア軍はルガンスク、ドネツクに入り、防衛線を構築すればそれで終わりです。ところが、プーチンは、「首都占領」を目指したのです。
ところが、ウクライナ軍は、ロシア軍を撃退し、首都攻防戦に勝利しました。この時、主につかわれていたのは、トルコ製のドローン「バイラクタル」と、歩兵携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」でした。ロシア軍は敗退し、その後侵略初期に占領した、東部ルガンスク、ドネツク、南部ザポリージャ、へルソンに戦場を移しました。
しかし、欧米は、一貫してウクライナ支援に積極的ではありませんでした。ゼレンスキーはその後、「都市を防衛するためにパトリオットミサイルが必要だ!」「反転攻勢に戦車が必要だ!」「航空優勢を確保するためには、戦闘機が必要だ!」などと、繰り返し繰り返し訴えることで、一歩一歩支援を勝ち取ってきました。
なぜ、欧米は支援に積極的ではないのでしょうか?繰り返しになりますが、「プーチンをあまり追い込むと、戦術核を使ってくるかもしれない」と恐れているのです。レッドラインがわからないので、「これをやっても核を使わないかな?」「ここまでは大丈夫かな?」と、動きがゆっくりになります。そして、武器支援がどうしても「小出し」になってしまうのです。
このことは、ウクライナ軍に致命的ともいえる打撃を与えました。どういうことでしょうか?
2023年4月、ウクライナ軍に「反転攻勢」のチャンスが訪れました。米軍は、「すぐ反転攻勢しろ!」とアドバイスした。ところが、ウクライナ軍は、「武器が不足している。欧米から十分な支援が届くまで待つ」と開始を遅らせました。
ゼレンスキーが「反転攻勢開始」を宣言したのは、2か月後の6月に入ってからです。この2か月間に、ロシア軍は、地雷原をつくり、塹壕を掘り、強固な防衛線をつくることに成功したのです。結果、ウクライナの反転攻勢は失敗しました。
その後、2023年10月に「イスラエル―ハマス戦争」が勃発。アメリカの目は、ウクライナではなく、中東に向くようになりました。そして、(トランプの影響下にある共和党が過半数を占める)アメリカ下院が、さらなるウクライナ支援を許さなかった。結果、ウクライナは、武器弾薬不足になり、ロシア軍が優勢になっていったのです。
そうこうしているうちに、ロシア軍は、ルガンスク州、ドネツク州の北に隣接するハルキウ州を猛攻するようになっていきました。そして、CIAのバーンズ長官は、「ウクライナは年内に負ける可能性が高い」と断言するようになったのです。「産経新聞」4月19日付。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は18日、ロシアの侵攻が長期化するウクライナに米国が軍事支援をしなければ「年末までに敗北する危険性が非常に高い」と述べた。南部テキサス州ダラスでの会合で語った。
4月20日、アメリカ下院は、9兆4,000億円のウクライナ支援の緊急予算案を可決しました。そして、最近は、「我々が提供した武器で、ロシア領内の軍事施設を攻撃することを許可する」という流れになってきました。これまで、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカなどが認めています。プーチンが、また核による恫喝を繰り返しているのは、これが原因なのです。