同様に俎上にのせられた中国の「過剰生産の問題」も、選挙イヤーの国際情勢がもろに反映された議題だった。メイド・イン・チャイナをターゲットに、「過剰生産」という錦の御旗を掲げ、国際的な包囲網を築こうとするアメリカの動きは、自国の技術覇権の維持という目的のほかに、大統領選挙を見据えた「中国叩き」という要素が多分に含まれている。このことは過剰生産のメインターゲットが中国製EVである点からも明らかだ。
中国製EVは、現状、ほとんどアメリカには輸出されていない。入っていないものに「高関税をかける」と息巻くのは有権者向けの「マッチョ」アピールだ。だが、これに「EUも同調しろ」と呼び掛け、EUが応じれば話は違ってくる。中国には明らかな「痛み」が生じるからだ。そしてEUは、暫定的ながら中国製EVに最高で38.1%の関税を上乗せすると発表した。
中国製EVの価格競争力が政府の補助金で支えられているとの認識は、自動車産業界ではほとんど共有されていない。例えばドイツの三大メーカーなど、多くの自動車メーカーはこれまでに何度も公式の場で中国製EVへの関税上乗せに反対の声を上げてきた。
経済界が望まない障壁を政治が率先して作るという魔訶不可思議な現象は、アメリカでも見られる特徴的ネジレで、そこでは利害の不一致も見られる。
EU内部でも軋轢は深刻だ。EUのなかではフランスとスペインが関税上乗せに賛成し、ドイツとイタリア、スウェーデンが反対の立場をとっている。だが、東・中欧各国が関税に前向きな態度を見せているなかではドイツの声は少数だ。ただ賛成の立場のスペイン内部でも閣僚によって意見はまちまちだというように、賛否はモザイク模様で、投資家を悩ませている。
ここに今回、G7の新たな議題としてアメリカが持ち込んだ、半導体での新たな「中国排除」の動きが重なると、サプライチェーンの未来はさらに不透明感を増してくる。
半導体では、従来アメリカが掲げた「スモールヤード、ハイフェンス」という一部のハイテクを対象とした「排除」から、その範囲を大幅に広げるという。つまり、14ナノメートル以下の高い技術の製品から28ナノメートル以上も対象にするという議論だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年6月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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