アメリカ大統領選挙の第1回テレビ討論会を間近に控え、アメリカの有権者の関心事は「民主主義」から「インフレ」へと移ったと話題になっているそうです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、選挙が続く欧米で何が関心事となっているのか解説。外交面では、この1週間で最も注目されたプーチン大統領の北朝鮮訪問に触れ、両国間で結ばれた包括的戦略パートナーシップ条約に韓国が激しく反応した理由を伝えています。
激しい気候変動のなか、朝鮮半島とガザ、ASEANで展開された外交と変化を検証する
11月のアメリカ大統領選挙に向けたジョセフ・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の第1回のテレビ討論会まで1週間を切り、世界は「選挙イヤー」の熱気を否が応でも感じ始めた。欧州ではイギリスの選挙に続いてフランスの議会選挙も予定されている。
アメリカの有権者の最大関心事が「民主主義」から「インフレ」へと移ったことが多くのメディアで報じられ、欧州の選挙との共通点が注目された。
日本人が欧米の選挙を見ていてしっくりこないのは、経済への関心が同じように高くても「インフレ」とは「まだ無縁」だと多くの有権者が思っているからなのだろう。同じように欧米社会で関心の高い「移民・難民問題」や「気候変動問題」も、日本では馴染みのあるテーマとは言えない。日本のニュースのラインナップと欧米を比べたとき、圧倒的に頻度が低くなるのが移民と気候変動のニュースだからだ。
ここ数年、欧米の初夏のトップニュースといえば中国のお株を奪うように大雨と洪水が定番で、時折、干ばつと山火事の被害情報が入るというパターンが繰り返されてきた。
今週はフランスで大規模な洪水が起き、気候変動のせいなのか、長雨でミツバチが大量死したニュースも注目された。アメリカではヒートドームが中西部から北東部を覆い、高温への警戒が呼びかけられるなか、ニューメキシコで山火事が発生し、大規模災害の宣言も出された。南部ではハリケーンや竜巻の被害も続いている。
こうした被害がなぜ起きたのか。それが気候変動から説明されることによって大統領選挙での争点になるのである。つまり日本のメディアが高い頻度で取り上げる対中国をふくむ外交問題は、ひょっとするとインフレや移民、そして気候変動といった問題の次にくるテーマかもしれない。
その外交問題のなかでも、中国により強い関心が注がれているかといえば、必ずしもそうではない。恐らく、イスラエルとハマスの戦い(ガザ問題)や、ロシア・ウクライナ戦争(露烏戦争)と比べれば優先度はむしろ低いのではないだろうか。
というのも、どう中国と向き合うかという問題は、ガザ問題や露烏戦争とは違い、バイデン、トランプの間にそれほど大きな政策の違いはないからだ。トランプ大統領の再登板によってウクライナ支援が見直されたり、イスラエルのガザ攻撃がほぼ手放しで支援され続けるかも、といった激変がもたらされるわけではないのだ。