ピラミッド型からネットワーク型へと転換する世界
この「ネットワーク型」あるいは「ネットワーキング」というのが、21世紀型の組織原理である。20世紀型の組織は総じて「ピラミッド型」で、その原型は軍隊もしくは工場労働システムで、頂点には圧倒的な権限と恒常的な地位を保証された指揮官がいて、その命令一下、まさに上意下逹で合図が伝わって組織全体が整然と動き出すというイメージである。
それに対して「ネットワーク型」は、それこそ本当の意味でフラットで緩やかな人々の繋がりのことで、そのような市民活動のスタイルが米欧で驚くべき勢いで広がっていることを私が知ったのは、1984年に少し長く米国に滞在して、あのベトナム反戦運動を戦った米国の「68年世代」はその後どこで何をしているのかを取材していた時だった。
米国人ジャーナリストのSが私の話を聞いて、「そうだ、いい本があるよ」と書棚から探し出してくれたのがジェシカ・リップナック&ジェフリー・スタンプスの共著『ネットワーキング』だった。帰国してから調べると、正村公宏監訳でプレジデント社から翻訳が出たばかりで、「ヨコ型情報社会への潮流」「もう1つのアメリカの発見」と副題がついていた。そのことを私は1992年に出版した『世紀末・地球市民革命』(学研)の中で要旨次のように述べていた。
▼ネットワークとは、われわれを結びつけ、活動・希望・理想の分かち合いを可能にするリンクである。ネットワーキングとは、他人とのつながりを形成するプロセスである。「もう1つのアメリカ」とは、どこかの場所ではなく、心の状態であり、それこそが、「60年代に何が起こったのか、そして70年代に人々はどこへ向かったのか」という問いに対する答えとなっている。
▼ネットワーキングは、常に変化し揺れ動いている有機的なコミュニケーション形成のプロセスであり、しばしば自分と他を分け離す境界線、内部規則、専任の職員もなく存在することがある。コンセンサスが目標ではあるけれども、不一致は容認され歓迎される。もし気に入らないことがあれば、自分の好きなものを作り出せばいいだけのことで、それを誰も非難したり妨げたりすることはない。スポークスマン的な役割をする人はいても、権力をふるう代表者や理事会のようなものはほとんどない。問題解決のために個人の持っている資質を活用することはあっても、何か「勝ち取る」ようなものはない。アメリカ各地に根付いてはいるが、国境はなく、地球全体の相互関連性をよく認識している――などが底に流れている共通の価値観である。
▼著者たちは、そのような考えで活動している団体に手紙を出し約1,600の団体から返信を得、その中の興味深い実例を紹介している。筆頭に出てくるのは「ボストン女性健康書籍協会」で、女性反戦活動家のナンシー・ホーリーが中心となって1969年5月にマサチューセツ工科大学の校内で30人ほどが集まって開いた「女性とその身体」についてのワークショップが発端となり、『わたしたちの身体、わたしたち自身』と題した本を出版した。それが評判を呼び10年間に全世界で12カ国の言語に翻訳されて200万部以上を発行した(邦訳は『女のからだ/性と愛の真実』=合同出版、74年刊)。
▼「この大きなクモの巣のようなつながり。一人の人が同じような思いを持った大勢の人たちのなかで、ある小さな動きを見せる。それにつれて人々の間に、自然にネットワークができあがる。誰か一人が中心となるのでなく、みんなが参加するのである」……。
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