トランプ・バイデンどちらが勝っても米国終了。ヨボヨボになった“元覇権国”と心中する気マンマンの情けない日本

 

21世紀に生き延びることはできない「覇権システム」

そう、ネットワーク型組織論の原型は、クモの巣=ウェブ、80年代にはまだ一般公開されていなかったけれども、インターネットである。どこにも全体を取り仕切るセンターはなく、代表者も責任者もおらず、技術的な問題を調整する国際ボランティアの委員会のようなものがあるだけ。利用者の誰もが問題を提起して、情報の共有なり研究開発なり抗議行動なりを呼びかけることが出来、それはまさにウェブの1つの編み目が下から持ち上げられるとそこにイニシアティブが形成され、それに賛同し同じ思いを共有する人々が自然に集まってきて共同作業が始まる。そして問題が解決するか、みんなが飽きるかすれば、その持ち上がった編み目は元の位置に下がって何事もなかったかのように鎮まり、また別のところで別の人がイニシアティブを発揮する――という具合である。

これで何もかも上手く行くというわけにはいかないのはもちろんのことで、むしろ逆に、誰でもが全世界に向かっての発信者になることができるというインターネットのその革命性は、個々人のリテラシーというか高い自律的な倫理性に支えられなければ、限りなく人を傷つけてしまうという深刻な問題を孕んでいる。そのリスクを伴いながらも、しかし、そのような組織原理の大転換が20世紀末から21世紀前半にかけて進行中で、だからこそピラミッド型の最も極端な形である「覇権システム」も、また21世紀に生き延びることはできないのである。

「元覇権国」と心中する準備を急ぐ岸田政権の愚

米国の覇権が終焉しつつあることについては、私は2006年に出版した『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版)の特に終章で詳しく論じ、次のように述べていた。

▼米国がパックス・アメリカーナを維持しようとすれば、米国を頂点として欧州とアジアを左右に従えたピラミッド型の支配秩序をあくまで追い求めなければならないが、そんな目標は幻想的で、私が繰り返し言ってきたように、米国は「超のつかない、しかし十分に世界最大級の経済を持つ、普通の大国の一つ」へと軟着陸を遂げなければ大破綻を避けることが出来ない。

▼もし本当に「相対的なパワーが徐々に衰えていくのを自覚しながら、なおかつ最も重要な大国の一つに留まる」道筋を見出すことが出来れば、それがたぶん唯一の現実的な米国の生き残りの道となるに違いない。……

オバマ政権はこの米国にとっての本当の課題をかなりの程度理解し、それなりの努力をしたとは思うけれども、その後を襲ったトランプもバイデンもアッパラパーに終わった。

むざむざ無駄になった7年間の後に、4カ月後に迫った米大統領選で世界が注目することがあるとすれば、アチャリア教授が言うように、米国が思いのままに世界を動かせるかに見えた米国中心の覇権システム、すなわちリベラル世界秩序はもうとっくに終焉しているのだという辛い真実を率直に国民に語りかけ、これからは中国と肩を並べるか少し追い越されるかもしれないけども「いくつかの経済大国の1つ」というワンノブゼムに甘んじて生きていくことを学ばなければならないのだと説得できる、まともな人物が出てくるのかどうかである。

27日夜のバイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論を観て確かめるまでもなく、そんな可能性は絶無。だとすると世界の安全保障にとって最大の危険は、老大国=米国の(自分がどこに居て何をすべきなのかの自覚が定かでないという意味で)認知障害的な徘徊・妄動・暴走にあることを覚悟しなければならない。日本政府は今更ながらに嬉しそうに日米軍事一体化に走り、ヨボヨボの元覇権国と心中する準備を急いでいるかのようである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年7月1日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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