プーチンは本当に「狂った戦争好きの独裁者」なのか?突然でも一方的でもなく“起こるべくして起きた”ウクライナ軍事侵攻

 

「露軍が突然一方的に侵攻」の決まり文句を繰り返すマスコミ

本誌が折に触れて述べてきたように、眼前の事件や現象を論じる場合にそれにどれほどの長さの歴史時間の物差しを当てるかが大問題で、そこを熟慮するかどうかがジャーナリズムの質の高さを決める一要因である。

ウクライナの今日の事態を、2022年2月24日にプーチンがロシア軍にウクライナに対する「特別軍事作戦」を発令したことから始まったものと捉えれば、これは疑いもなくロシアのウクライナという他国に対する軍事侵略以外の何物でもない。そのことを前提とすれば、上述の駒木記者のような解説も成り立たない訳ではない。

実際、2年半前のその当時、NHKは、ほぼ1週間に及んだと記憶するが、朝昼晩の毎回のニュースで、ロシア軍が「突然、一方的に」侵攻し……という決まり文句を呪文のように繰り返し、他のマスコミも同工異曲だった。確かにそれが電撃的な作戦であるという意味では「突然、一方的に」という形容は間違いではなかったが、歴史の物差しを2014年2月の親露派ヤヌコーヴィチ政権の転覆、同3月のクリミアの対ウクライナ独立からの10年半という長さまで伸ばせば、何も「突然」でも「一方的」でもなく、まあ概ね、なるべくしてこうなってしまったのだと理解されるはずで、そのことに触れずに「突然、一方的に」とだけ言い募ると、プーチンは「気の狂った戦争好きの独裁者」だと決めつけるだけの印象操作に加担することになる。

NATOの存続と「東方拡大」戦略という致命的過ち

なぜなら、そのさらに10年前、2004年の大統領選挙で当選したヤヌコーヴィチを「不正選挙があった」とする市民運動で追い落とした「オレンジ革命」も、その後の選挙で彼が復権したのをもう一度倒そうという2014年の「ユーロマイダン革命」も、米国のネオコン集団、故ジョン・マケイン上院議員らの狂信的反共派、CIAの隠れ蓑機関であるUSAID、ジョージ・ソロスの世界民主化財団等々が半ば公然と介在して反露派の運動組織に資金や武器を供給して煽り立てた結果であることが、今では史実としてすっかり明らかになっているからである。

そして、なぜそんな馬鹿げた策謀が罷り通ったのかと言えば、そのまたさらに遡ること13年、冷戦が終わって、事の必然として当時のゴルバチョフ大統領は旧ソ連を盟主とする東側の軍事機構「ワルシャワ条約機構」をさっさと解体したにも関わらず、その西側の対応組織である米国を盟主とする「北大西洋条約機構(NATO)」は解散しなかったばかりか、その組織を旧東欧から旧ソ連傘下にあったバルト3国やジョージアやベラルーシ、そして遂にはロシアとは血を分けた兄弟と言われたウクライナまでをも取り込もうというNATOの「東方拡大」戦略を追求した。

そこで私は、朝日の記者に問いたい。今プーチンがやったり言ったりしていることが「あまりに身勝手」な「乱暴極まる要求」であるとすると、そのそもそもの根源である米国のNATO存続――それだけならまだしも、旧ソ連の勢力圏をまずはEUの経済圏に、次にはNATOの軍事網に組み入れ、さらに米国製兵器の市場として開拓しつつ、遂にはロシアとの国境線まで攻め上がって包囲し追い詰めるという「東方拡大」戦略は、「あまりに身勝手」な「乱暴極まる要求」ではなかったのか?

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