戦争を続けても二重の意味で何ら解決しない問題
ウクライナ戦争の本質が東部のロシア系住民の自治権をめぐる内戦だとすると、停戦の意味もそこから考え始めなければならない。ウクライナ側が主張し米国はじめNATO諸国も概ね支持しているように、ロシア軍を全土から叩き出すことが戦争目的だとすると、仮にそれが達成されたとして、そこで問題はまた振り出しに戻って、では勝利したウクライナは東部のロシア系住民をどう遇するのかに直面する。
またその場合に、「全土」にはクリミア半島が含まれるのかどうか。私はクリミアの軍事的奪回を戦争目的に含めるのはもはや不可能で、ゼレンスキーがそれを叫んでも米国でさえ支持しないだろう。だから、戦争をいくら続けても、二重の意味で何ら問題を解決しないのである。
逆にロシア側から見ると、戦争目的は最初からはっきりしていて、東部のロシア系住民の生命及び自治権の保証である。それを平和裏に達成すべく「8年間待った」が、もはやこれまでと軍事手段に打って出たのである以上、東部諸州をウクライナから独立させロシア領に組み入れる以外に解決はない。朝日の駒木記者は「乱暴極まる要求」、「交渉の提案ではなく領土の割譲要求だ」と言うが、プーチンは領土が欲しいのでなくロシア系住民の生きる権利の保証を求めているのであり、別に「乱暴極まる」ことではない。逆に聞きたいのだが、今となって東部のロシア系住民の生きる権利を確保する手段・制度は他にあるのだろうか。
興味深いことに、ウクライナ国民の中でも領土を割譲してでも停戦を早期に実現すべきだという声が上がり始めていて、そのことはキーウ発の共同電の小さな記事が東京新聞7月24日付夕刊などに出た。早速、元のデータを検索すると「キーフ国際社会学研究所」が5月に行った世論調査で、「できるだけ早く和平を達成し独立を維持するためにウクライナはその領土の一部を割譲すべきだ」と答えた人が過去最大の32%に達した。それに対して「戦争がいくら長引き独立の維持が脅威に晒されようとも、ウクライナは領土を一切割譲すべきではない」は55%、無回答は13%だった。
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