ウクライナ国民の「拒否率」が最も高い戦争の結末シナリオ
同研究所は、ロシアの侵略が始まった直後の22年5月から同様の質問を続けていて、それを時系列で見ると……、
割譲すべき すべきでない 無回答
22年5月 10 82 8
22年7月 10 84 6
22年9月 8 87 5
22年12月 8 85 6
23年2月 9 87 5
23年5月 10 84 6
23年10月 14 80 6
23年12月 19 74 7
24年2月 26 65 9
24年5月 32 55 13
22年秋には領土割譲を認める人は8%しかおらず、割譲に反対の人が8割以上、9割近くもあったのに、昨年10月以降、目に見えて割譲容認派が増え、反対派が10ポイントずつ減っていく結果となっている。もちろん、戦争が長引いて厭戦気分が広がり、「もう何でもいいから早く戦争を終わらせてくれ」という人が多くなっていることの反映で、割譲容認派が親露的というわけではない。その証拠に、将来のウクライナとロシアの関係はどうあるべきかについて、「他の国と同様に国境を閉ざしビザと税関を通じて往来する」と言う人が割譲容認派で73%、反対派で79%と、どちらも余り変わらない。また両者が「1つの国になるべきだ」という人は前者で1%、後者で0%で皆無に近い。ちなみにこの調査は、全土を対象としているがロシアに占領されている地域は含まれておらず、当然にもその地域に多いロシア系住民の意思は反映されていない。
次にこの調査では、戦争の結末シナリオについて3種類のパッケージを示して、その実現可能性を問うている。a=これなら妥協しやすい、b=難しいだろうが受け入れ可能、C=全く受け入れ不能、d=無回答(各%)。
《パッケージNo.1》a=8、b=30、C=54、d=8
- ロシアが現在の占領地を全て維持する
- ウクライナはNATOに加盟しない
- ウクライナはEUには加盟し西側からの再建のために必要な資金を受け取る
《パッケージNo.2》a=10、b=37、C=38、d=15
- ウクライナはこれを公式には認めないけれども、ロシアがザポリージャ、ヘルソン、ドネツク、ルハンスクの各州とクリミアを占領地として維持する
- ウクライナはNATOに加盟し実際に安全保障を得る
- ウクライナはEUには加盟し西側からの再建のために必要な資金を受け取る
《パッケージNo.3》a=20、b=37、C=33、d=10
- ウクライナはこれを公式には認めないけれども、ロシアがドネツク、ルハンスクの各州とクリミアを占領地として維持する
- ウクライナはザポリージャとヘルソンを完全支配する
- ウクライナはNATOに加盟し実際に安全保障を得る
- ウクライナはEUには加盟し西側からの再建のために必要な資金を受け取る
No.3のドネツクとルハンスクはロシアに渡すのは止むを得ないという案が、「妥協可能=a」と「難しいが受け入れ可能=b」の合計が57%と最多で、ゼレンスキーはこの辺りからプーチンとの交渉可能性を探り始めるのかもしれない。反対に、最も拒否率=cが高いのはNo.1のNATOに加盟しない案で、これはロシアは何としても了解しないだろう。和平への道のりは遠そうである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年7月29日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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