〈小出〉
実際、鈴木のほうが才能はあったんですよ。ただ、僕が何度マラソンをやるように水を向けても、「いやです。あんな恐ろしく長い距離を走れませんよ。私は1万メートルでいいです」と言って受け入れなかった。
その後、鈴木はオリンピックの有森の活躍に刺激を受けてマラソンに転向したのですが、彼女がそう言い出すまで10年待ちました。
もしも、最初に勧めた時に鈴木が「はい」と言っていれば、たぶんオリンピックで金メダルを2つ取っていたはずです。シドニーの金メダルも高橋ではなく鈴木だったと思っています。
〈長谷川〉
勝負の運は分からないですね。
〈小出〉
たぶん、運というのは誰もが持っているんですよ。それに気づかないで逃している人が多いんですよ。
〈長谷川〉
やっぱり伸びるためには「やってみるか」「はい、頑張ります」というような素直さが必要でしょうね。
〈小出〉
そういう意味ではQちゃんは素直だったし、明るかったし、何より嫉妬しない子でした。本当は嫉妬していたのかもしれないけれど表に出さず、「有森さん、よかったですね」「鈴木さん、よかったですねぇ」と喜んで、「私も頑張ります!」というタイプでした。
だから僕はいつもうちの選手たちに口を酸っぱくして言うんですけど、「自分だけ勝てばいいというのでは一流にはなれないよ」と。
人間、嫉妬しているうちは本当の福は回ってこない。たとえライバルだとしても、人の喜びを「よかったね」と心から喜んであげて、「私も頑張るわ」と発奮剤にできるような人じゃないと伸びないと思います。企業であれば、「うちも儲けるからおたくも儲けてね」という姿勢が大事だと思います。
※本記事は月刊『致知』2010年9月号 特集「人を育てる」より一部を抜粋・編集したものです
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