自民党の萩生田光一・前政調会長の政治生命が尽きつつある。先月の東京都議補選で支援した新人候補が惨敗したが、その選挙区の範囲は萩生田氏自身の衆院東京24区と同じ。裏金問題で八王子民からそっぽを向かれたうえに、組織票をもつ公明党や創価学会からも総スカン状態の萩生田氏は、次の衆議院選挙で“無職”になる可能性が高い。元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:萩生田の政治生命が危うい。優勝力士のオープンカーに乗っている場合か
萩生田氏自身が一番よく分かっている「落選危機」
東京都知事選と都議補選が終わり、自民党の実力者、萩生田光一氏は地元まわりに余念がない。
7月26日に投稿された公式ブログの記事に「猛暑が続きますが、各地の祭礼、盆踊りにおじゃましております。皆さんからの激励を力にこの夏を頑張ります」との記載がある。
ご苦労なことだが、仕方がない。お尻に火がついているのだ。
東京都議補選。「萩生田帝国」といわれた八王子選挙区の惨状を見よ。萩生田氏が必死になって支援した自民新人、馬場貴大氏は、「自民党の古い政治体質を変え、政治への信頼を取り戻す」と訴えた元都議の無所属、滝田泰彦氏にまったく歯が立たなかった。
滝田氏14万4009票、馬場氏9万8836票。馬場氏の敗戦というより、腐りきった自民党の体質を象徴する萩生田氏という存在自体に都民が「ノー」を突きつけた結果といえる。
その意味するところは、次期衆議院選挙における萩生田氏の落選危機が高まっているという現実だ。
萩生田氏の衆院選挙区、東京24区は八王子市のほぼ全域。つまり、配下の候補者が落選した都議選八王子選挙区と同じである。
安倍元首相と共にあった萩生田氏の政治家人生
萩生田氏の権力への道は、安倍元首相との出会いからはじまった。
八王子市議だった1997年、北朝鮮の拉致問題について調査をすべきだという意見書を作成し市議会で可決したさい、朝鮮総連などから激しい抗議を受け、自民党本部に連絡した。折り返しかかってきたのが、安倍氏からの電話だった。
「もしもし自民党の安倍晋三です」「萩生田さんの言っていることは間違っていませんから、絶対に引いてはダメです。私も全力で応援しますから」
後日、初めて顔を合わせた安倍氏に“一目ぼれ”した萩生田氏は、都議会議員を経て、安倍幹事長時代の2003年、衆院選に出馬し、当選した。
以下は月刊Hanada2022年10月号に掲載された萩生田氏の手記の一節である。
「以来、安倍さんとは政治信条を一(いつ)にして行動をともにしてきました。私が九歳下で兄弟みたいな感じといったら失礼でしょうか。何を気に入って下さったのか、誰よりもよく目をかけていただきました」
GWや夏の休暇ともなれば、安倍元首相のゴルフのお供をし、河口湖畔の安倍氏の別荘でくつろいだ。萩生田氏ら側近が文科省に圧力をかけて獣医学部新設を認めさせた私立大学の理事長もゴルフ仲間だった。「総理のご意向」を実現させることが萩生田氏の喜びだった。
2015年10月、安倍政権の内閣官房副長官として内閣人事局長に就任すると、「これで霞が関は俺の支配下だ。霞が関を牛耳ることができる」と東京都連の会合でうそぶいたこともあった。天下を手中にしたような気分だったのだろう。
暗転した運命。萩生田氏の権力闘争は敗北に終わった
安倍元首相が非業の死を遂げた後、萩生田氏の運命は暗転する。統一教会とのズブズブの関係がばれ、窮地に追い込まれた。
だが、したたかな萩生田氏は岸田首相にうまく取り入り、経産大臣から党政調会長にポスト移動すると、防衛費増強など安倍銘柄の政策を進め、安倍派の後継者レースの先頭を走った。
だが、狂いかけた運命の歯車は容赦なかった。派閥のパーティー券販売をめぐる裏金問題が発覚し、萩生田氏は収支報告書に記載しなかった裏金収入が直近5年間で計2728万円にのぼることが判明した。
萩生田氏は党の役職停止処分を食らったが、「都連会長は役職停止に含まれない」との岸田首相の発言を引き出し、党東京都連会長の座にはかろうじて踏みとどまった。
そこから巻き返しをはかるため萩生田氏は、4月の衆院東京15区補選、7月の都知事選、都議補選を主導して勝ち抜き、9月の党総裁選を前に有利に立ち回ろうともくろんだ。
ところが、その結果は惨憺たるものだった。
衆院東京15区補選では候補者さえ擁立できずに立憲の勝利を許し、都議補選は2議席しか獲得できず、八王子を含めて6人が落選。都知事選も、小池百合子氏が勝ったとはいえ、自民党からは誰も小池陣営の応援に入らないステルス選挙戦の結果であり、萩生田氏の手柄というより、むしろ体よく小池氏に利用された感が強い。
萩生田氏は7月16日、「指揮を執った私の責任は大きい。会長を退き、新体制の下で来年の都議選と参院選に臨む」と、都連の会長を辞任する意向を表明せざるを得なくなった。
蓮舫氏か新人候補か?萩生田氏を引きずり降ろす刺客たち
萩生田氏の東京24区は、裏金議員のもとに刺客を送り込もうと画策する野党のリストに入った。事実、立憲民主党の長妻昭政調会長は、7月25日、同選挙区に独自候補を立てると言明している。
2012年以来、萩生田氏が安定して勝ち星を積み重ねていたため、前回の21年には候補者擁立を断念したが、ようやく萩生田氏を撃破できるめどが立ったということだろう。
いまや萩生田氏は、党総裁選で勝ち馬に乗るための算段をするどころか、自らが政治家として生き残れるかどうかの瀬戸際で苦しんでいる。統一教会との関係についても、裏金についても、説明責任から逃げるばかり。有権者にそっぽを向かれるのは当然だ。
識者の間からは、立憲が萩生田氏の対抗馬として、蓮舫氏を出すつもりかもしれないという見方も出ている。だが、萩生田氏が相手なら、無名の新人であっても倒せる可能性がある。もちろん、野党側がクリーンなイメージの統一候補を立てれば、である。
いったん崩れかけた選挙地盤を立て直すのは難しい。なにより、金の力に頼り世襲がはびこる自民党という政党のブランドイメージが落ちてしまったこと。それに、萩生田氏の場合、選挙協力をめぐって悪化した創価学会・公明党との関係を修復できていないことも、重くのしかかる。
昨年5月、公明党は、衆院小選挙区の「10増10減」にともなう候補者調整を自民党と続けるなかで、5議席増える東京の小選挙区のうち28区と29区に候補者を擁立したいと主張した。
しかし自民党は、28区に当時の政調会長、萩生田氏と親しい前衆議院議員の立候補を内定していたことから、公明党の要望をはねつけた。
「萩生田だけは許せない」創価学会幹部が激怒
萩生田氏は、公明党が現職の擁立を決めていた29区についても、自民党都議を立てるべく動いていた形跡がある。公明党の石井啓一幹事長が「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と憤慨し、一時、自公連立は危機的状況に陥った。
20年以上にわたり創価学会の政治部門を取り仕切ってきた佐藤浩副会長の怒りの矛先は萩生田氏に向かった。以下は週刊新潮(23年6月8日号)の記事の一部である。
学会関係者が囁く。「佐藤さんは党幹部の中でも28区と29区で譲らない萩生田さんに対する怒りを露わにしていました。“あいつだけは勘弁ならねぇ”とぶちまけていたそうです」
萩生田氏の地元、八王子市は創価大学など関連施設が多く集まる学会の「聖地」だ。そんなことにおかまいなく、2022年7月の参院選の公示直前、萩生田氏は自民党公認候補、生稲晃子氏を連れて同市内にある統一教会の施設を訪れ、イベントに出席した。その事実が週刊誌に報じられ、学会員の反感を買った。
同施設では、礼拝を兼ねた日曜日のバーベキュー大会に萩生田氏がジャージ姿で駆けつけていた姿が目撃されている。
もともと選挙には強くないといわれる萩生田氏が、創価学会と統一教会に二股をかけて自分の選挙を有利に運ぼうと考えたわけだろうが、そのおかげで、今や統一教会の選挙応援を頼むわけにはいかず、学会票もあてにできない状況に追い込まれている。
八王子を地盤とする萩生田氏の前回衆院選の得票数は14万9000票ほどで、選挙区の学会票は4万4000票といわれている。公明党、創価学会との関係がよければ確実に計算できるこの膨大な組織票。それが逃げてしまえばどうなるかは、わかりきったことだ。
優勝力士のオープンカーに乗っている場合か
7月29日、大相撲名古屋場所で優勝した横綱・照ノ富士の優勝パレードが行われた。オープンカーに乗って観衆に手を振る照ノ富士と熱海富士の真ん中に、後援会長である萩生田氏が座り、笑顔をふりまいた。
この光景に違和感をおぼえ、力士二人だけのパレードだったらよかったのにと思ったファンは多かったに違いない。
後援会長であればなおさら、祝賀ムードに水を差さないよう遠慮するという心がけも必要だ。この人には自分が見えていないのか。
とはいえ、今からでも遅くはない。全ての疑惑について、しっかり説明責任を果たすことだ。永田町界隈を義理人情とコワモテだけで渡っていけば何とかなる時代ではなくなりつつある。いったん政治を離れ、権力に囚われた自らの心を鍛えなおす時を過ごしたらいかがだろうか。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう
新 恭さんの最近の記事
- なぜ新聞は「鹿児島県警の闇」を正面から報じないのか?盗撮・横領・ストーキング…犯罪隠蔽に加担する大マスコミの末期症状
- 世耕弘成の大誤算。なぜ和製ゲッベルスは自民を追い出されたのか?萩生田と「扱いの差」鮮明、党内政治敗北の深層
- #八王子の恥 萩生田光一が喧伝する「理不尽な話」の仰天中身。政倫審から逃亡、要職にしがみつき“ネオ安倍派”再興狙うか
- 小沢一郎が「政敵」野田佳彦を立憲代表に推すワケ。小異を捨て自民を倒す「立憲・維新共闘」と政権交代の現実度は?
- 菅義偉が推す「石破茂新総理総裁」誕生で日本はどうなる?自民石破政権が「始まる前から国民を舐めている」ワケ
- 「石丸新党」が起こす野党再編の大波。石丸伸二氏が「維新に取り込まれる」心配はないと言える理由…橋下徹氏との会話にヒント
- 故・石井紘基氏を殺したのは“誰の自由”か?自民党政策活動費と特別会計の深い闇
【関連】パリ五輪「悪趣味な開会式」と萩生田光一「大相撲優勝パレード」、今月の恥知らずNo.1はどっち?ポイントは罪悪感のなさ
【関連】まるで前田敦子。地元八王子市民から「脱税ブタメガネ」の罵声も上がった萩生田光一が自民都議連会長を辞任した姑息な理由
image by: 萩生田光一公式サイト