不動産市況の低迷が続く中国ですが、ITや電気自動車(EV)、ドローンといった最先端の産業においては、不況などどこ吹く風。勢いはまったく衰えていないようです。そんな中国の最先端企業の多くが本拠地を置く深センを訪ねたのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、EVで躍進するBYDを訪ねる機会を得て幹部に聞いた話を紹介。アメリカに敵視され、追加関税100%を課される状況への見解に、BYD成功のワケを見出しています。
深センに行って見て考えた自動運転とEVの現在
IT大手のテンセント(騰訊)、ドローンで世界シャア70%を誇るDJI(大疆)、そしてファーウェイ(華為技術)といった名だたる企業が本社を構える中国・深セン市。世界にその名をとどろかせる巨大企業が、それぞれのベースに城下町のような拠点を築き、街を睥睨する。
いまや電気自動車(EV)の国内販売で米テスラを抜き去り、躍進し続けるBYD(比亜迪/Build Your Dreams)もその例外ではない。BYDが自社の技術や製品を紹介するために設けた展示スペースには、間断なく大型バスが横付けされ、目を輝かせた訪問客たちが次々と吐き出されてくる。ホールを埋める活気には伸び盛りの企業の勢いが感じられた。
その一角で突然、大きな爆発音が響き、続いて歓声とため息が上がった。強化ガラスで仕切られたスペースの中ではバッテリーに金属の棒を突き刺す実験が行われていたのだ。爆発したのは他社製のバッテリーだと説明された。続いて、BYD製のバッテリーに同じ実験が試みられた。しかし、金属棒は静かにバッテリーを貫いただけで爆発はしなかった。安全性を強調する同社のデモンストレーションだ。1時間に1回のペースで行われているという。
パリオリンピックが閉幕した直後、私は久しぶりに深センを訪れ、EVや自動運転に携わる企業、ファーウェイやBYD、小馬智行(Pony.ai=ポニー)を訪問する機会を得た。いずれも間違いなく中国が見据える自動運転の時代に向けて中核を担うと目される企業だ。
BYDは2022年7月に日本に本格参入し、「ドルフィン」に続いて「シール」という2車種を市場に投入しているので日本での知名度も高まりつつある。CMに女優の長澤まさみを起用して話題になった。
中国国内や東南アジア(特にタイ)で売り上げを爆伸させ、欧州市場でもその存在感を高めた。紛争の続くイスラエルでの売り上げも好調だという。しかし、そうしたタイミングで持ち上がったのが「関税」という政治の障壁だった。根底にあるのは米中対立だ。バイデン政権が中国製EVに最高100%の関税を上乗せするとの方針を示し、EU(欧州委員会)にもそれに同調するよう求めたのだった。
BYDは昨年末、関税の網をかいくぐるかのようにEU加盟国・ハンガリーに新エネルギー乗用車の生産基地を建設すると発表した。「あれで欧州の問題はひとまず安心できる状況となったのか?」BYDの幹部、A氏にそう尋ねると、A氏は顔をしかめて首を横に振った。
では、どんな対策を考えているのか、と続けて問うと、A氏は「そういうことはわれわれが考えても仕方がない」と口をつぐんだ。政治によって生じた障害に対し、突破よりも回避を選択するのがBYD流なのかもしれない。事実、アメリカ進出は現状を見る限り彼らの計画にはないようだ。