3.中心から外れた要素
大企業は多数派のためのビジネスを行う。大量生産が可能で、効率が良いからだ。グローバル展開ができない企業でも、この基本は変わらない。
しかし、少数派の市場が存在しないわけではない。日本の婦人服ブランドは、サイズ展開が少ない。Sサイズ、Mサイズ、Lサイズの3サイズ展開が主流だ。この3サイズで9割近く供給しているのではないか。
実際には、3サイズ以外の顧客はどれほど存在するのか。正確な数字ではないが、少なくても3~4割程度はいるだろう。
主流の3サイズは供給過剰であり、それ以外のイレギュラーサイズは供給不足という状態が長年続いている。
これは、サイズばかりではない。カラー、素材、価格等、あらゆる要素でも同様だ。売れ筋は集中しており、中心から外れた要素を持つ製品は供給不足である。
この隙間を埋めるのが、デザイナーブランドであり、ファストファッションのデザイナーコラボだ。デザイナーブランドは高額であり、他ブランドとの差別化を特徴としている。デザイナーコラボは、期間限定、数量限定で市場ニーズに対応している。しかし、どちらもサイズの特徴はない。
4.少数派のためのブランド
例えば、サイズの切り口を考える。一般的に大型サイズは、オバサン風のデザインが多い。反対に、小型サイズは、子供っぽいデザインが多い。
大型サイズでは、若いデザイン、可愛いデザインが供給不足が続いている。
小型サイズでは、大人っぽいデザイン、セクシーなデザインが不足している。
どちらも供給者側が、「サイズさえ合えばいいだろう」という安易な姿勢が見え透いているのだ。
ここにニーズがある。
例えば、「特定の時代や地域では、大きな体の女性こそ美しい、という価値観があった。私は、体が大きいことは美しい、という価値観を広めたい」というコンセプトも考えられる。体の大きな人は、大きくて派手なプリントが似合う。アクセサリーも大振りなものが良い。
店のイメージは、南国風、リゾート風にして、販売員も大柄な人限定とする。
あるいは、「体の大きさと内面は関係ない。小型サイズは店頭にないので子供服のほうがサイズは合うが、デザインが子供っぽくて着られない。小型サイズでも成熟した大人のイメージを与えるような服を提供したい」というコンセプトも考えられる。できれば、実際にサイズ問題に悩む人が自分の体験を元に企画を組み立てるのが良いだろう。
カラーも、店頭に出てこないものがある。例えば、紫色である。古来より高貴な色の代表だが、少量しか売れず、必ず売れ残る色だ。好きな人は大好きだが、多くの人は敬遠する。
したがって、「紫好きの、紫好きによる、紫好きのための店」というコンセプトは成立する。
少数派のための店、ブランドこそ大企業と張り合えるのである。
■編集後記「締めの都々逸」
「一寸法師は 小さいけれど 鬼を倒して 姫娶(めと)る」
山椒は小粒でぴりりと辛い、と申しますが、あれは辛いからいいのですな。小粒で旨いとか、甘いと言っても物足りないものです。
企業も同じですな。小さい企業はひりりと辛い企業を目指しましょう。大味な大企業の中で、ひりりと辛い存在感。そして、山椒があるから、大企業も生きる。それが理想です。
ところが、大企業は自分が偉いと思っているので、山椒を無視します。そうすると、なんとも締まらない味ばかりが増える。間が抜けた味になりますな。(坂口昌章)
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