野党第一党として存在感を示したい立憲・野田代表が勝負をかける「企業・団体献金の禁止」。法案実現には立憲、維新、共産、れいわだけでなく、オール野党の結束が必要不可欠だが、思いのほか国民民主の態度がはっきりしないのはなぜだろうか。「この国から金権政治を一掃するには企業・団体献金の禁止は必須条件」とみる元全国紙社会部記者の新 恭氏が、玉木代表の置かれた難しい立場と「与野党・等距離外交」の悩ましさを詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:国民民主「与野党・等距離外交」の悩ましさ
立憲・野田佳彦代表が掲げる「企業・団体献金の禁止」
この臨時国会の注目点は、少数与党に転落し野党の協力なしに政権運営が難しくなった石破首相がどこまで野党の要求する政策を受け入れるかということだ。
国民民主党が求めているいわゆる「103万円の壁」撤廃については、石破首相が所信表明演説で「令和七年度税制改正の中で議論し引き上げます」と明言した。引き上げ幅はこれからの交渉となるが、補正予算の成立がかかっており、国民民主があるていど納得する数字での決着となるだろう。
政権側に近づいて「実」をとろうとする国民民主の派手な動きがメディアに大々的に取り上げられるなか、影が薄くなりがちの立憲民主党は、野党第一党としての存在感をいかにして示すかに苦慮している。
衆議院における立憲・無所属会派の議席数は自民の196に次ぐ148。予算委員長ポストも確保した。全野党をまとめあげる力量さえあれば、政権奪取だって可能だ。
にもかかわらず、世間の目は国民の玉木雄一郎代表に注がれている。主導権をとり戻さなくては来夏の参院選が危うい。
そこで、立憲の野田佳彦代表は政治資金改革、なかでも「企業・団体献金の禁止」に勝負をかけ、野党連携の輪に国民民主も加わるよう呼びかけている。
国民民主がその気になれば禁止に持っていける状況だが
裏金問題をきっかけとして政治改革論議が高まるなか岸田前首相は政治資金規正法を改正したが、その中身といえばお寒い限り。企業・団体献金、政治資金パーティーの開催、使途を公開しない政策活動費、そのいずれもが温存された。
国民の不満が高まり、衆議院選挙で自民党は惨敗。このため石破首相は年内に政治資金規正法の再改正をめざすことにし、与野党協議が11月26日からスタートしたばかり。いまのところ、政策活動費については廃止方針がほぼ固まり、旧文通費の公開も年内に決まる方向だが、本丸といえる「企業・団体献金の禁止」に関しては、財界からの巨額献金をあてにする自民党内に反対の声が強く、野党が結束してコトにあたらない限り、実現は難しい。
「企業・団体献金の禁止」には立憲のほか、日本維新の会、共産党、れいわ新選組が賛成の態度を明確にしている。この4党の203議席に、国民民主の28議席、さらに野党系無所属議員「有志の会」の4人を加えると235議席となり、定数465の衆議院で可決することが可能だ。
ところが国民民主党がはっきりしない。石破政権が補正予算案を通すにも、野党が政策で連携するにも、国民民主はキャスティングボートを握っている。だが今のところ、「103万円の壁」政策を優先し与党にすり寄ってはいても、野党間の協力に熱心なようには見えない。
玉木氏も「企業・団体献金の禁止」に後ろ向きとは思われたくない
立憲の「企業・団体献金の禁止」案は、以下のような内容だ。
会社、労働組合その他の団体(政治団体を除く)が政治活動に関する寄附や政治資金パーティーの対価の支払いをすることを禁止する。
国民民主が慎重姿勢をとる理由としてあげるのが「政治団体を除く」という文言だ。
たとえば労組が関連の政治団体を通じて献金した場合、企業・団体献金とみなされないことになる。それは規制の「抜け道」になるという指摘だ。
これに対し、立憲の野田代表は「政治団体の定義をお互いに確認しながら、議論を進めればいい。(立憲として)抜け穴を作ろうと全く思っていない。一緒に知恵を出し合おう」と、国民民主側に協議を求めている。
おそらく、国民民主がその気になりさえすれば、「政治団体を除く」が削除され、全面的な企業・団体献金禁止でまとまるのではないか。
むろん、国民民主が立憲の呼びかけをはねつけているということではない。玉木代表はこれまで企業・団体献金を禁止するには「与野党が一致する必要がある」と難しい条件をつけてきたが、ここへきて考えが変化した形跡がある。
12月1日のフジテレビ「日曜報道THE PRIME」。ゲスト出演した玉木氏は「野党が一致すればやる」と語った。「与野党」ではなく「野党」が一致すればいいという発言に、フジテレビ解説委員、松山俊行氏がすかさず「立憲民主党が政治団体を除くとしている部分を見直したら、野党全体で一致してやっていくということですか?」と念を押すと、玉木氏はこう答えた。「法律上の抜け道をふさぐと言う以上はやろうよということ」。
さすがに「企業・団体献金の禁止」に後ろ向きと思われたくはないようだ。それなら話は早いはずだが、いまだに立憲と国民民主の間で具体的な協議が行われている様子はない。
国民民主党は“スポンサー様”への配慮も欠かせない
国民民主党がこの政策に消極的な背景として、産業別労働組合の支援を受ける国会議員が数多く所属していることがあげられる。
浅野哲氏(電機連合)、竹詰仁氏(電力総連)、浜野喜史氏(同)、濱口誠氏(自動車総連)、礒崎哲氏(同)、川合孝典氏(UAゼンセン)、田村麻美氏(同)。このうち浅野氏は衆院議員、他の6人は参院議員である。
11月29日の毎日新聞デジタルに以下のような記事が掲載された。
連合傘下の主要な労働組合や関連政治団体が、自ら擁立・支援する立憲民主党と国民民主党の参院議員に対し、2023年に計約2億4000万円を寄付したことが、29日に総務省が公表した政治資金収支報告書で明らかになった。寄付額は国民民主の議員が計1億6482万円で、立憲議員の計7400万円を上回った。
こうした国民民主党の体質こそが真の原因と勘繰られても仕方がないだろう。
立憲民主党の野田代表はこう語る。
「政策を歪めてしまう可能性のある企業・団体献金については廃止をするということがセットで決まったのが30年前の政治改革ですね。いまだ企業・団体献金をもらいながら政党交付金をもらって二重取りするというのは、おかしいんじゃないか」
リクルート事件やゼネコン汚職などが起きた後、「政治改革」の声が高まり1995年に導入されたのが政党交付金だ。企業・団体献金をなくすことを前提とし、その代わりに国民の血税を原資とした政党交付金を国庫から支出することになったわけだ。
自民党への配慮と来年参院選の間で板挟みになる玉木氏
ところが、自民党はその趣旨を無視し、企業・団体献金をもらい続けてきた。
2022年の企業・団体献金の総額は約127億円で、うち自民党が約117億円を占めている。残りは、立憲民主党約5億円、国民民主党約2億円などだ。「企業・団体献金がなくなるときは自民党が終わるとき」という某自民党幹部の声も、あながち大げさとはいえない。
11月28日、石破首相は岸田前首相の事務所を訪れ、2人きりで会談した。そのさい岸田氏は企業・団体献金について、「禁止するのは反対」との考えを伝えたと報じられている。
カネで政治を動かすのを常套としてきた自民党がやすやすとこの巨額集金システムを手放すとは考えられない。
だが、この国から金権政治を一掃するには企業・団体献金の禁止は必須条件だ。それには立憲、維新、共産、れいわに加え、国民民主の“戦線参入”が欠かせない。
だが国民民主は先述した党内事情に加え、「103万円の壁」を178万円の目標に近づけるため、交渉相手の自民党に配慮しなければならない事情がある。
今後、公式の場で立憲の野田代表から企業・団体献金を禁止する法案の共同提出を求められた場合、国民の玉木代表は苦しい立場に追い込まれるだろう。それを断って、政治改革に後ろ向きだと世間に受けとめられたら、来夏の参院選に響くのは間違いない。
与党にも野党にも等距離で向き合い「対決より解決」をめざすと公言する玉木代表だが、その理念通りに進めるのは容易ではなさそうだ。
玉木氏が自公政権に“二股”をかけられる恐れも
12月1日の代表選で大阪府の吉村洋文知事を新たな代表に選出した日本維新の会との関係も気になる。
吉村代表は自民党的な体質の馬場前代表とは路線を変え、野党の立場を鮮明にして「自民党に対峙する」と宣言した。一方で、政策実現のためなら与党との話し合いは厭わないとも言っており、その点では、国民民主党の姿勢に近い。
しかも国会議員団を率いる共同代表は前原誠司氏と決まった。
自民党に融和的な玉木代表との意見の食い違いから、3人の仲間とともに国民民主党を離党し維新に合流した前原氏ではあるが、同じ“鉄道オタク”の石破首相と仲がいいのは周知の通り。自民党にすれば馬場代表の時よりむしろ話がしやすくなる可能性もある。
維新と国民民主はうまくコミュニケーションをとれるのか。自公政権に“二股”をかけられて、都合よく利用されることがなければいいが。
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image by: たまき雄一郎オフィシャルサイト